リム・カーワイ(撮影・弦巻勝)
リム・カーワイ(撮影・弦巻勝)

 僕が生まれたマレーシアでは、娯楽といったら映画ぐらい。だから、習慣のように週1回は映画を観に行っていて、そのおかげで映画好きになりました。

 大学からは日本に来て、大阪大の工学科に進学。卒業後は、東京でエンジニアとして就職しました。当時、休日のほとんどは映画館に通っていましたね。まだ名画座がたくさんあった時代で、銀座並木座や大井武蔵野館にはしょっちゅう通っていました。あの頃、名画座に足しげく通っていた外国人って、たぶん僕ぐらいしかいなかったと思います(笑)。そこで初めて日本映画を観て、すっかりトリコになってしまった。特に成瀬巳喜男、溝口健二、増村保造――この3監督の作品は大好きです。

 もちろん、外国映画もたくさん観ました。その中でも一番はやはり、台湾のエドワード・ヤン監督。ヤン監督も理系出身で、僕のキャリアと重なるせいもあって、映画を観るたびに勇気づけられた。そして観るうちに、自分でも映画を撮りたいという欲求が生まれてきたんです。

 もちろん、映画監督というのは未知の世界。でも、不安はなかったんですよね。というのも、僕は先のことはあまり考えない(笑)。留学や就職も、そのときの流れに乗ってきたし、映画監督の大変さは想像できたけど、心配はしなかったんです。とりあえずやってみるしかない、と。何かあったら、そのときに考えたらいい――そのスタンスは今でも変わりませんね。たぶん、これからも。

 今回の新作『カム・アンド・ゴー』は、平成最後の日の大阪が舞台。梅田周辺の“キタ”と呼ばれるエリアに生きる、さまざまな国籍の人たちのドラマを描いています。

 僕自身、大学時代は大阪で、就職してから6年間は東京で暮らしました。そのときに一番感じたのは、大阪と東京では、人と人との距離感が違うということです。大阪人は他人に対して遠慮なしにツッコんでくるけど、東京人はそういうことをしませんよね。そんな大阪人のメンタリティ――自由にふるまう資質がとても“アジア的”だと感じるんです。

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