沖昌之(撮影・弦巻勝)
沖昌之(撮影・弦巻勝)

 子どもの頃から、猫は大好きでした。とは言っても、家では動物を飼うことができなかったので、母が昔飼っていた猫の話を聞くとか、近所の猫を眺めて「かわいいな」と思うのが精いっぱい。猫とつきあう経験がないまま、大人になりました。

 そんな僕が「猫写真家」と名乗るようになったのは、一匹の猫との出会いが始まりでした。

 それは2013年の大みそかのこと。僕は仕事の合間に、職場から少し離れた公園で、やさぐれていました。当時はブティックに勤めていて、ネット用に商品の写真を撮るのも仕事の一つ。でも、写真を撮れば「ヘタクソ」と叱られて、会社のインスタに風景写真をあげても全然「いいね!」がつかない。しかも、大みそかまで仕事に追われるような状況だったわけです。

 公園でため息をつきながら、ふと見ると、まるまると肥えた猫が、公園の真ん中にドテッと転がっている。毛並みはアメリカンショートヘアのような渦巻き柄で、顔はエキゾチックショートヘアみたいにつぶれている。そんな猫が、のんきにペロリと舌を出していたんですね。

 僕は、その「ぶさにゃん先輩。」――僕が勝手に名づけたんですが(笑)――に、とても心ひかれてしまって、翌日になっても頭から離れない。なので、今度はカメラを持って公園に会いに行き、写真を撮ったんです。

 それで、「ぶさにゃん先輩。」の写真をインスタにあげてみたら、海外の人から「いいね!」がついた。そこで初めて“自分の写真を褒めてくれる人が、世界のどこかにいるんだ”と感じることができて、すごくうれしかったんですね。それ以来、毎日2〜3枚の猫写真をインスタにあげるのが日課になりました。

 それまでも写真を撮ることは好きでしたけど、猫を撮っているときが一番楽しかった。このために写真をやっていたんじゃないかと、自分の中でしっくり来たし、もっと僕の猫の写真でよろこんでもらいたいと、思うようになったんです。

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