■そこの場所に生きている猫の“らしさ”が撮りたい
でも最初は、どこに行けば猫がいるのか分からず、大変でしたね。猫探しはRPG(ロールプレイングゲーム)に似ています。ひたすら歩き回って、宝箱(猫)を探すしかない。茂みに隠されていることもあるので、くまなく探す。
運良く見つけても、猫はこちらが思うように動いてはくれません。カメラを構えて心を無にし、猫の感情の動きを感じとる。もう、ほとんど禅の心ですよ(笑)。
僕が撮りたいのは、ペットではない“外猫”です。写真を撮る前から、ずっと猫は好きでしたけど、カメラを通して見てみると、「ルックスはかわいいけど、クールで動かない」という、それまでの猫の固定概念が覆りました。
僕が見た外猫たちは、喜怒哀楽にあふれてて、よく動く。ひとくくりに“猫”なんじゃなくて、一匹ずつ心があって、それぞれの思いがあって……人間と何も変わらない。
猫はみんなかわいいんですが、僕は“どうして”かわいいのかに興味がある。だから、それぞれのしぐさを切り取れば、その猫の“らしさ”が表現できるんじゃないかと思ったんですね。
派手なことをしてほしいとは思わないし、それをし始めたら、僕の好きな猫ではなくなってしまう。こびている猫は猫じゃない。僕は、そこの場所に生きている猫と向き合って、そのコの“らしさ”が撮りたいだけなんです。
2015年に仕事を辞め、「猫写真家」になって、6年以上が過ぎました。今もずっと、外で暮らしている猫を撮り続けています。猫たちは思い通りにはならないけれど、たまに僕の想像以上の姿を見せてくれる。そんな写真が撮れたときは本当にうれしいし、自分は本当に幸せだなと思います。このまま変わらず、猫を撮っていきたいですね。
沖昌之(おき・まさゆき)
1978年生まれ。兵庫県出身。アパレル会社勤務を経て、2015年に猫写真家として独立。野良猫をモチーフにしたユニークな写真で人気を博し、現在インスタグラムのフォロワーは25万人を超える。代表作として、写真集『必死すぎるネコ』『ぶさにゃん』『残念すぎるネコ』、絵本『いない いない にゃあ』などがある。
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