関西に生息するアヤシくてオモロい人たちに、大阪出身・京都在住の人気ライター・吉村智樹が直撃インタビュー!
■出演した舞台での大失敗…そのショックで覆面芸人に変身
大阪の塚本に、客席23人の小さな寄席小屋「横っちょ座」がある。ここを拠点にして活動しているのが“謎の覆面芸人”マスクド・コメディアンさん。
蝶ネクタイに青いタキシードジャケットという、いかにも昭和の芸人然としたレトロないでたち。顔は覆面レスラーのようにマスクをすっぽりかぶっており、素顔は一切、明かさない。芸歴や年齢など個人情報もオール秘匿。なんともミステリアスな存在だ。
「ふだんはメキシコに住んでいまして、塚本まで夜行バスで通っているんです」
覆面レスラーの本場であるメキシコから塚本へ、わざわざ……ンなアホな。しかし、プロレスが好きなのは事実。彼が特に愛した選手は“千の顔を持つ男”“仮面貴族”の異名を取るミル・マスカラスだ。
「見るたびに違うマスクで顔を覆っているミル・マスカラスが、カッコよくて好きでした。華麗に空中を舞う姿に憧れましてね。それでプロレスのマスクを収集するようになったんです。最も多い時期で、500枚以上を所有していました」
膨大かつ貴重なプロレスマスクを500枚以上もコレクションするとは、相当なマニアだ。しかし「借金をするほどマスク購入にのめり込んでしまい、金を返すためにマスクを売る」という本末転倒な流れに。泣く泣く収集を断念した。
そんな彼が、自らマスクを装着して舞台に上がるようになったのは3年前。ピン芸コンクール『R-1ぐらんぷり』(現:R-1グランプリ)の予選に素顔でエントリーし、「ずるずるにスベッた」のがきっかけだという。
「ウケなくて、すっかり心が折れましてね。それ以来、顔をさらしたまま、一人でしゃべるのが怖くなり、マスクをかぶって漫談を始めたんです。すると、自分でも意外なほど強気になれたんですよ。スベるのがぜんぜん怖くなくなりました。面白くなったか、ですか? それは別問題で(苦笑)」