■小林大児制作統括のコメントは「政治家のような終わらせ方」

 田幸氏は小林制作統括の「さまざまな時間やスタイルで『ちむどんどん』をご覧いただけたこと、うれしい気持ちでいっぱいです」というコメントについて、こう続ける。

「『ちむどんどん』に関して、SNS上で反省会のタグと共に批判があって盛り上がっていたことを制作スタッフは知らないはずがありません。ただ、盛り上がったことと、いろんな見られ方をしたというのは事実で、『ちむどんどん』は誰もが知っている最注目作品になっていましたし、実際にNHK社内でも表彰されています(同局の視聴アプリ『NHKプラス』の利用者増加に貢献したとして)。

 ドラマ制作でいろいろな試みをすること自体はすごくいいことです。『ちむどんどん』は、朝ドラの在り方と見られ方を新たに大きく広げた作品で、その意義は大きいでしょう。その一方で、どうしても考えてあげたほうがいいと思うのは、『ちむどんどん』批判の矢面に立たされていた脚本家の羽原大介氏や、役者さんたちのこと。

 小林制作統括のコメントは、『いろんな見られ方がされた』という一点で”結果が出た”として総括する、政治家のような総括の仕方だと感じました」(田幸氏、以下同)

 そして、『ちむどんどん』制作サイドは「本当に描きたかったことが描けなかったのではないか」と田幸氏は続ける。

「『ちむどんどん』は、全体を通して大事なところはすっ飛ばしてナレーションで説明することが多かったですよね。最初の1、2週目、沖縄のお盆であるウークイを描いた第15週、最終週の第25週や、ごくごく一部だけど大城房子(原田美枝子、63)の話などもシリアスな展開が入っています。こうしたエピソードが、本当に描きたかったことだったのかなと感じました」

 第1週と第2週目は、ヒロイン・暢子の子ども時代が主に描かれた。その中でも仲間由紀恵(42)演じる母・優子が夜中に涙を流すシーンや、農作業をしているシーンでけたたましい飛行機の音が鳴るなどの演出があった。

 第15週では、母・優子が沖縄戦で壮絶な経験をしたことや弟を飢えで亡くしたことが明かされ、沖縄戦の被害者の遺骨収集を行う老人が登場し、戦争が残した爪痕を描いていた。最終週では、草刈正雄(70)演じる老人・大里五郎が、優子の姉・時恵の遺品のジーファー(沖縄のかんざし)を優子に渡しに来ていた。原田が演じる房子も戦争で妹を失うなどの経験や戦後の闇市での生活が語られていた。

「さとうきび畑で農作業している上を米軍機が通り過ぎた様が挿入されるなど、沖縄が背負わされてきたことや、沖縄戦など”これまで描いてこなかったもの”に着手したことは、大きな意義があったと思います。

『ちむどんどん』は本当に言いたいメッセージを直接的に描くのではなく、『若草物語』などをイメージソースに、明るい牧歌的な物語の中にメッセージを忍ばせよう、という意図で制作されたのではないでしょうか。ただ、そのメッセージの配分や、ドラマのテイストの混ぜ方にかなり苦心されたのではないかと感じました」

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