「………いたよ」友人が小さな声て答えた

玄関の引き戸を開けて、
「ごめんください」

とりあえず、声を掛けてから中に入ります。もちろん建物内は真っ暗。懐中電灯の明かりだけを頼りに、部屋を散策していきました。

想像以上に中は荒れ放題。自分の足下の床が抜けてもおかしくない状態です。前の住人が使用していたものでしょう。床には生活用品や私物と思われる物が散乱しています。さすがに仏壇を見たときには、気持ち悪くて目を反らしてしまいました。

最初のうちはテンション高く騒いでいましたが、3人ともじょじょに口数が少なくなっていきました。いま思うと、この建物内に漂う重苦しい空気を自然と察知していたのでしょう。

「出なかったけど、そろそろ帰ろうよ」
「そうしよう」

トモヤの提案に対して、ぼくはすぐに答えました。しかし、カズヤがまったく反応しません。というか、先ほどから姿を見ていません。

トモヤと一緒に声を掛けながらカズヤを探します。すると奥から、なにやら人の声が聞こえてきました。恐る恐る部屋の中を覗くと、カズヤが仏壇に向かって正座をしています。先ほど聞こえた声はカズヤが唱えていたお経だったようです。

「カズヤ、なにしてんだよ!?」
「出ないし、帰ろうぜ」

2人で口々にそう言うと、
「………いたよ」

カズヤは喉から絞り出すような小さな声で答えました。

「いたって、なにが?」

トモヤがすかさず突っ込みます。するとカズヤは振り返ってポロポロと涙を流しながら、押し入れを指差しました。

なにがいるんだ? そう思いましたが……普段、強気のカズヤがこんな姿になっているのを見たうえで、押し入れを確認する勇気はありません。トモヤも同じようです。もはやここにとどまっているのは危険だ! カズヤを抱えるようにして廃屋を後にしました。

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