車のリアウインドウに土気色したじいさんが!
車に乗り込んだところで、カズヤを落ち着かせて話を聞きました。
彼いわく、仏壇のある部屋に入った瞬間、体がまったく動かず声も出なくなったそうです。すると、押し入れからボロボロの白い浴衣を着た老人が、ズッ、ズッ……ゆっくり這い出で来てきました。
そして、カズヤの体をよじ上るようにして立ち上がり、耳元で囁いたそうです。
「待ってたぞ……わしが許すまで、仏壇に向かって拝め!」
そして、老人は再び押し入れに戻ったと言うのです。不思議なことに、自分の意志とは関係なく仏壇の前に正座してしまったそうです。
もはや、カズヤにかける言葉も見つかりません。
沈黙の時聞が続き、ようやく県境の川に架かる橋が見えてきたとき、
「うわっ!」
ルームミラーで後方を確認したトモヤが大きな声を上げて、アクセルを踏み込みました。
僕には訳がわかりません。
すると橋を渡りきったところで、カズヤがポツリと言いました。
「着いて来てたか?」
「いた! 土気色したじいさんが、リアウインドウに顔を押し付けて、お前を睨んでた!」
真っすぐ前を見ながら、運転しているトモヤが言いました。
カズヤに言わせると、その老人は廃屋からずっと車に張り付いていたそうで、
「お前たちが恐がると思って黙ってたんだ!」
あの日からカズヤはおかしくなってしまいました。奇妙な言動が増えて、ぼくたち2人にも会おうとしません。
もしかすると橋のところで逃げ切れたと思っていましたが、実は老人に取り憑かれてしまったのでしょうか……。