覆された「高血圧=塩分過多」

このように日常のなにげない行動が死に至るとは怖いが、その他にも我々には多くの誤解があるという。
その一つが、飲酒がメタボの原因という考え方。
「ビール腹と言うように、ビールや酒類は太りやすいと思っている人が多いようですが、実際は違います。なぜなら、アルコールは体内で水と炭酸ガスに分解され、ほとんどカロリーとして摂取されないんです。カロリーとして残るのは、アルコールと一緒に入っているアミノ酸や果汁エキスなどで、実際の摂取カロリーは、ラベルに書かれているカロリーよりもずっと小さくなります」(同)

岡田氏によると、350ミリリットル缶ビールは約150キロカロリーあるが、実際に摂取されるのは50キロカロリー程度。 おにぎりの4分の1程度だという。
「4本のビール=おにぎり1個程度のカロリーですから、これがメタボの原因になるとは言いにくい。しかも、ウイスキーや焼酎などの蒸留酒はさらに吸収されるカロリーが低いんです。酒で太らないことは、外国の研究でも明らかになっています」(同)
とはいえ、油断は禁物。酒自体は低カロリーでも、一緒に食べるつまみは当然カロリーになるからだ。
「酒で太るとすれば、おつまみが原因でしょうから、気になる人は、そこを見直せばいいでしょう」(同)

カロリーに関しては、もう一つ。「成人男性は1日2100~2200キロカロリー」という目安を信じている人も多いだろうが、これが来年から 変わるという。健康政策や現場医療に詳しい医療 評論家の牧潤二氏が次のように説明する。
「厚労省が、食事はカロリーよりもBMI値によって加減するべきという方針を打ち出したんです」

BMI値は、体重÷〈身長(m)×身長(m)〉で計算できる。 これは、全員が同じカロリーを基準とするのではなく、それぞれの体格や生活を加味すべきという理由から。 BMI値が25未満なら、多少太めでもカロリーに固執する必要がないというわけだ。
実は、医学界でも、長生やきのためには「痩せていたほうがいい」と「少し太めのほうがいい」とで分かれているので、ぽっちゃり程度なら、それほど神経質にならなくてもいいようだ。

また、体重を気にしてダイエットをする人も多いが、なかには危ないモノも多いという。

最近流行の、米や麺類などの炭水化物を極端に減らす 「糖質制限ダイエット」もその一つだという。『民間療法のウソとホント』(文春新書)などの著書がある医療ジャーナリストの蒲谷茂氏は、 「重度の糖尿病患者が医師の指導の下で行うならともかく、ダイエット法としては首を傾げる部分が多い」と話す。
糖質制限ダイエットは、炭水化物(=糖分)を抑えれば、カロリーをあまり気にせず、肉類を食べてもいいとされているが、
「空腹を満たすために肉の摂取量が増えるケースが多くなり、これが逆にマイナスとなって現れることも考えられます」(前同)

糖質制限ダイエットは、ずっと続けなくてはならず、言ってみれば、米(炭水化物)主体の食生活を根本的に変えることになる。
「何十世代も続いた古来からの食生活は、ある意味、安全が保証された食事です。ところが、糖質制限食は長いスパンで検証された食事ではありません。昔からの食生活を変えるなら、慎重になる必要があるのではないでしょうか」(同)

また、食生活でよく言われる「高血圧=塩分の摂取」にも、疑問符が付くという。 なぜなら、塩分をいくら控えても血圧が下がらない人がいるからだ。
「塩分以外に高血圧の原因がある場合、塩分をいくら少なくしてもあまり意味がないんです」(前出・牧氏)
塩分を摂ると、とたんに血圧が高くなる人は「食塩感受性」が高いのだが、これに当てはまる人は意外に少ない。 研究者によって幅があるが、食塩感受性の高い人は正常血圧の人で15~53%、高血圧者でも20~74%程度だという。 残りの人は、塩分の過多と血圧に関係がないというのだ。
「塩分を控えてもなかなか血圧が下がらない人は、医療機関で食塩感受性の検査を受けるといいです。塩分過多による高血圧でない方は、血圧を下げる他の方法を試すべきです」(前同)

また、食事と並んで重要な睡眠も、誤解されているところがあるという。
「睡眠は8時間なくてはいけないと思っている人が多いんですが、中高年になったら、若い頃より睡眠時間が少なくても済むんです。厚労省でも、今年3月、睡眠時間の指針を出し、日中に眠くならないなら、45歳以上で6・5時間、65歳以上なら6時間で十分としています」(同)

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