「中之条町の研究では、歩いている人ほど医療費もかからないことが分かりました。歩けば病気にもならず、医療費も抑えられるというわけです。ウォーキングはいいことずくめの運動なのです」(前出の池田博士)

 いろいろな健康効果が出るのは、血流が良くなるからだという。「第2の心臓と称される足の筋肉ポンプの働きが良くなり、心臓の負担が小さくなる。血栓もできにくくなるため脳卒中予防に。免疫力も上がるので、がんをはじめとする病気に対抗できる。歩くことはカロリーを使うため、生活習慣病にもなりにくく、肥満解消につながります」(医療関係者) さらに歩くと脳血流も通常時よりも30~50%ぐらい増え、脳細胞が活性化して認知予防になるだけでなく、脳内神経伝達物質が調整されるため、うつ病などの精神疾患も抑える。

「実際、ある企業の事業所で3000人の従業員に毎日8000歩のウォーキングを3か月間続けさせたところ、ストレスの軽減や気分改善、不安や抑うつの緩和などの効果が確認されています。歩くことは体の健康だけでなく、心の健康にも欠かせないのです」 こう話す池田博士によると、ウォーキング健康法の一番のポイントは一日8000歩(距離にして5~6キロ)、できたら1万歩(7キロ)を歩くようにすることだという。しかし、どうしたら一日8000歩も歩くことができるのか?

「続けるコツは、歩くことを生活の中に組み入れることなのです。たとえば、通勤時、朝20分早く起きて一つ先の駅まで歩き、帰るときも同じように歩く。仕事が忙しいときや疲れている日は無理にやろうとせず、週単位で考えて、足りなかった日の歩数を補うようにするのも手です」(前同)

 実は1000歩を簡単に稼ぐ裏技がある。それは万歩計を持つことだ(図1参照)。前述した中之条町の研究の被験者も身体活動計を持つと、意識的に歩くようになり歩数が増えている。「東京学芸大で教鞭をとっていたころ、学生たちに万歩計を持たせたところ、歩けとも言わないのに、みんな確実に歩数が増えていました(笑)」(同)

 歩数がクリアできるようになったら、次は「中強度の運動」を取り入れたい。これは歩幅を大きくして、やや早めのスタスタ歩きをすれば可能だ。最低20分はスタスタ歩きを取り入れたい(図2参照)。「年を取ると活動範囲が狭くなり、2種類ある筋肉のうち、長距離型の筋肉が主に使われ、短距離型の筋肉が使われる機会が減ってきます。そこでスタスタ歩きをすることで、持久力はあるが力が小さい長距離型筋肉でなく、収縮が速くて大きな力が出る短距離型筋肉を使うのです。中之条町の研究でこうすることが健康にプラスと判明しています」(前出の医療ジャーナリスト)

1
2

 歩くときはコンクリートで舗装された平らな道ではなく、なるべく公園や河川敷などの土や草の上を歩くようにしたい。(図3参照)。「昔、人間はでこぼこ道を歩いていました。平らなコンクリートの道を歩くようになったのは、つい最近のことです。平らで固いコンクリート道は歩くときの衝撃が同じ関節にかかり負担が大きくなるのです。できることなら、でこぼこした土の道を裸足で歩くのがベストなのですが」(前出の池田博士)

3

 昨今流行りのウォーキングだが、競歩のように曲げた腕を振りながら一心不乱に歩いている人がいる。池田博士は「そこまでやる必要はない」と話す。「歩くことはもともと人間の本能であり、気持ちが良いことなんです。運動だと肩肘張らず、歩くことを楽しんでください」 歩いているときに肩や腰を回したり、背伸びをする。(図4参照)。のびのびした歩き方のほうが楽しくなり、免疫力もアップする。読者の中には歩くと膝や腰が痛いという方もいるだろうが、歩かなくなると、その症状はさらに悪化する。膝や腰が痛いときは、痛みがより少ない姿勢で歩く(図5参照)。

4と5

 実は、運動はもちろん、歩くのも億劫だった本誌オヤジ記者は以前に、別の取材で池田博士から「ぎっくり腰になったとき、横になって動かさないようにしてはダメなんです。痛くないような姿勢で歩くと自然に治ります」と教えられた。以来ぎっくり腰になったときや、なりそうだ、これはヤバイと思ったときこそ、あえて歩くようにしている。歩くとギクッと腰が痛くなるが、なるべく痛くない姿勢で、なんとか歩く。変な格好になるが、かまわず自宅から往復3~4キロの距離にある公園まで歩いて帰ってくる頃には、腰の痛みがかなり軽減されているのだから驚きだ。

 まさに歩くことによってナチュラルメディスン効果が働いたのだが、ぎっくり腰や、ひどい肩こりに悩まされる方にこそ、ぜひ試していただきたい。

  1. 1
  2. 2
  3. 3