アニメーション監督の宮地昌幸が手掛けるこの個人PVは、第四次世界大戦で壊滅的な打撃を受けた東京が舞台となる。人間が地上で暮らすこともできないほどに街は汚染され、わずかに残った人々は無音の地下空間で日々を過ごしている。その生き残りも、やがては身体を蝕まれ滅びを待つほかない。かすかな望みを託された井上は、なかば人体実験として未来の東京へと送られる――。

 本編の大半が静止画と井上のナレーションで進行する本作では、井上が送り込まれた「未来」の風景がやはりスチールで表現されるが、そこにあるのは浅草や隅田川など、我々が知る現在の東京の姿である。

 滅びゆく世界よりもさらに先の世にたどりついたはずの彼女が、平穏な東京の風景に収まっている画は、奇妙なリアリティをもって迫ってくる。ディストピアへの道程をイメージとして設定することで、我々にとって同時代的なありふれたものであるはずの街並みが瞬時にノスタルジーを帯びていく、不可思議な体験がここにはある。

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