■「個人的にすごい嫌」な芸人

「ただ英訳するだけじゃなく、“間”や“世界観”を意識した字幕を付けなければいけないといいます。

 ちなみに、海外のギャグには“ツッコミ”という概念が薄く、単純に訳しても《頻繁にブチ切れる何か怒りっぽい人》というとらえ方をされることも珍しくありません。そういう意味でも、お笑いの翻訳は大変な作業ですね」(翻訳家)

 たとえば、狂言の言い回しが持ち味のすゑひろがりずの漫才は、同じく海外での「古典」であるシェイクスピア風の「古臭い英語表現」で再現したり、「西郷隆盛」を海外で知名度のある「カーネル・サンダース」に置き換えたりするという。「お笑いのコンテンツは、お笑いがわかってないと任せられへん」という理由で、チャドには仕事が絶えないという。

「生活ぶりを紹介してから、チャドさんはスタジオで、翻訳しづらい人や、そのままでも問題なくウケそうな芸人などがいることを明かしたんですが、意外な名前が続々と出てきました」(遠藤)

 まずチャドは「個人的にすごい嫌」と名前を出したのは、NON STYLE。ノンスタの持ち味はハイテンポとボケの手数の多さだが、翻訳する場合はマイナスに働いてしまい、

「ギュッと単語だけになってわかりづらいうえに、ダジャレが多いから、そのまま訳してもどうにもならない」

 という理由で苦労するという。

 さらに、内海は以前チャドに「コーンフレークのネタ、英語にするなら言ってね」と言ってもらえたものの、現在のミルクボーイについてチャドは「湿布のネタばかりしよんねん!」「湿布が副作用がある本作用がある……そもそも海外の人は湿布知らんねん!」と、現状のミルクボーイの漫才に不満を漏らしていた。そのため「なんとなく想像できそうなものにする」というが、自分の知らないところでネタの翻訳が進んでいることを、その場で初めて知った内海は驚愕していた。

 チャドによると吉本本社が勝手に海外輸出を進めていたそうだが、本人的には「コーンフレーク漫才」の方がイケると考えているそうだ。

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