■「歩く競馬四季報」と評される

 武豊騎手を「歩く競馬四季報」と評す声もあるほど、自分が乗ったレースは、展開、位置取り、ペース配分など、完璧に覚えているというのは有名な話だ。

「武豊騎手は海外馬についても、厩舎や、どんな馬かもスラスラ出てくるんです。その記憶力には、誰もが舌を巻きますよ」(スポーツ紙記者)

 あらゆるレース展開を想定したうえで作戦を考え、虎視眈々と勝利を狙う武豊騎手。前出の馬場氏は、「レース前に取材をすると、“作戦があるんですよ。教えませんけどね(笑)”って、よく言われたこともありますよ」と話す。そして、その見事な作戦に、馬場氏が思わず唸ったのが、89年のマイルCSだった。

 このレースは、断トツの1番人気だったオグリキャップが、絶望的な位置から前を行く2番人気のバンブーメモリーを差し切ったことで、競馬ファンの間では“伝説の名勝負”として語り継がれている。

「豊君はバンブーメモリーに乗っていて2着に敗れはしたんですが、オグリとの間に1頭挟んで出し抜くタイミングなんかは、本当に神業でしたよ」(前同)

 また、武豊騎手の騎乗技術に関して、『政治騎手名鑑』(双葉社)でおなじみ、競馬ライターの樋野竜司氏は、こう解説する。

「武豊騎手は、数々の“必殺技”を編み出していますが、中でも強力なのはゴール前の首の上げ下げ。ゴール板の数センチ前、数センチ後ろでは負けているのに、ちょうどゴール板のところだけ、武豊騎手の馬が不思議と前に出ているというシーンを見たことがある読者の方も多いのではないでしょうか」

 その必殺技が遺憾なく発揮されたのが、キタサンブラックとともに勝った16年の天皇賞(春)。

「池添謙一騎手のカレンミロティックに一度は完全に前に出られましたが、武豊騎手は、ゴール前で馬を追うことより、クビの上げ下げなどテクニックを駆使することで、最後は差し返した。また、先頭に立ったカレンが一瞬、ソラを使うことを見越して、キタサンに最後の脚をためさせていたようにも見えますね」(前同)

 こうした騎乗技術に加え、巧妙なレース中のペース配分は“ユタカマジック”と呼ばれ、世界的な名騎手のオリビエ・ペリエも、「ユタカは頭の中に時計を持っている」と称賛している。

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