■「1年かけて演技できる」貴重な現場

 演技については関西出身の菅田も『W』1話の時点では、セリフ以前に標準語すら満足に喋れない状況だったが、「一切の記憶がないコンピューター人間が徐々に人間味を取り戻して感情豊かになっていく」のが演技力の向上とシンクロしていた。

 そのため、『初耳学』で菅田は『W』について「1年かけて1つの役を作れるのは贅沢」「1年かけて役を作る勉強ができた」。その経験が「(基礎に)メチャクチャなっている」と感慨深く語る場面もあった。

 ちなみに、ほかに仮面ライダーを演じたのが現在に生きた、というエピソードについて菅田は、

「ライダーのセリフってすごく見得切りがはっきりしているというか、ド正面にかっこつけて真っすぐ言葉を言うことが多かったので、勇気がつきました。お芝居だと普段自分がなかなか使わない表現や、ちょっと照れるなっていう言葉を言わなきゃいけなかったりしますが、そこで違う表現に逃げるのではなく、なるべくその言い方をしたいなっていうときに助かっています」

 という利点も19年に『マイナビニュース』で語っていたほか、17年に『仮面ライダービルド』にて“万丈龍我/仮面ライダークローズ”を演じた赤楚衛二(28)も「役を1年間演じられるのは、なかなかない。覚悟、根性を学ばせていただきました」と、『2022年用年賀状 受付開始セレモニー』にてコメントしていた。

■アドリブ力が求められる現場でしごかれる

「くわえて、『仮面ライダー』の撮影は、現場判断のアドリブがかなり強く、監督だけでなく若手俳優も率先して意見を出すことが多い。こういう部分で、役者に必要なアドリブ力が鍛えられます。

 また、1年番組のため、あらゆる面で設定変更はつきもので、“序盤に退場する予定だったけど人気だから延命させる”“予定になかったけど○○を仮面ライダーに変身させる”“作品の根幹にかかわるレベルの路線変更をする”“正体に関する超重要設定をあえて役者に教えない(後付けの場合も多い)”という話はしょっちゅう。

 佐藤さんの『電王』に至っては、ヒロイン役の女優が病気で途中降板した結果“ヒロインを子役に変えてあたかも当初から決めていた伏線かの如く後付けで重要設定をこしらえる”という離れ業をしたこともとあります。こうした過酷な制作現場を1年間耐え抜いた俳優にとって、1クールドラマは精神的にも体力的にも、相対的にゆとりを持つことができる。これが、仮面ライダー俳優が演技の仕事で重宝される理由だと思いますよ」

 1年間を通して、どんな若者も立派な役者に「変身」するということかー-。

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