■”今の時代”を映す社会問題をドラマにうまく入れ込んでいる

『エルピス』の渡辺あや氏は尾野真千子(40)主演の2011年度連続テレビ小説カーネーション』で、朝ドラ史上初めて同年のギャラクシー賞大賞を受賞している。21年にはNHK『今ここにある危機と僕の好感度について』で文化庁芸術祭賞のテレビ・ドラマ部門で大賞を受賞した。

『ファーストペンギン!』の森下佳子氏は大沢たかお(54)主演の『JIN-仁-』(TBS系)や綾瀬はるか(37)主演の『義母と娘のブルース』(TBS系)といった代表作があり、『silent』の生方美久氏は第33回フジテレビヤングシナリオ大賞を勝ち取っている。

「今回、秋ドラマの脚本家の皆さんは、新人からベテランまで“今の時代”をしっかり描こうとしているように思います。『エルピス』では路上キスで左遷されたのは長澤さん演じる女性アナウンサーの浅川で、その相手でかつての彼氏だった鈴木さん演じる同局勤務の斎藤は官邸キャップに昇進しているなど“男女の格差”があります。そして局内でのパワハラやセクハラ描写、偏向報道についてなど、テレビ局内の問題をテレビドラマで真正面から取り上げていることも画期的なんです。

 さらに『ファーストペンギン!』では、ドラマの舞台であるさびれた地方の漁村で、ことあるごとに女性が男性から下に見られるなどの描写もありますが、それをことごとく跳ね返し、突き進んでいくんです。しかもこれらの作品が女性の脚本家によって書かれていることにも注目しています。かように今期の秋ドラマには、さりげないセリフや設定にジェンダーや労働にまつわる問題、時事問題などをキッチリ入れ込んだ作品が多く、しかもそれを声高にアピールするのではなくてあくまでドラマの中で描く、という匙加減に感じ入ることしばしばです」

 そして、月曜から金曜の夜22時45分から23時までの15分間、NHKで放送されている『夜ドラ』枠は要注目だ。現在は、元V6井ノ原快彦(46)主演の『つまらない住宅地のすべての家』が放送中で、以前は眞栄田郷敦(22)主演の『カナカナ』や、仁村紗和(28)主演の『あなたのブツが、ここに』といった作品がドラマファンの間で好評を博していた。

「井ノ原さん主演の『つまらない住宅地のすべての家』はホームサスペンス調で味わい深い作品です。仁村さん主演の『あなたのブツが、ここに』は運送業で働く、元キャバ嬢のシングルマザーの話でとても良かったので、この枠は今後もっと注目する人が増えてほしいですね」

 ジャンルはバラバラながら、それぞれに「新たな挑戦」と「今の社会を映す」社会問題を入れ込んでいる作品が多い今期ドラマ。皆さんのお気に入りの作品は、いったいどのドラマになるのだろうか――。

成田全(なりた・たもつ)
ライター。ドラマ、映画、芸能など、さまざまなジャンルの知識を横断して活躍しており、ドラマのレビュー、インタビューや書評の執筆も数多く手がけている。

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