■クロサギの感情に寄り添った脚本に胸がえぐられる

『クロサギ』は主人公・黒崎の生き方にどれだけ共感できるかがポイントのひとつになるが、今回は脚本の妙がとにかく冴えわたっていた。まずは、スピード感があるのに、描写が丁寧なことだ。

 氷柱(黒島結菜/25)の家族が詐欺被害で揺れ動いている現在進行中のエピソードに、黒崎の失われた家族の経緯を重ねている。詐欺被害が自分の父親と同様だったこともあって、当時の父親の苦悩を思い出したり、父親が母親と怒鳴り合っているのを階段の隅で聞いていたりと、忘れられないつらい思い出がよみがえってくる。黒崎が経験したひとつひとつの過去が丁寧に織り込まれることで、詐欺師を憎み、今を生きる黒崎の人物像が積み重なり作られていくのだ。

 また、氷柱の家族エピソードに黒崎の家族シーンを同時進行させることで、明と暗の対比を生み出している。氷柱の母親が手作りした山盛りのおかずが並ぶ食卓で、黒崎がおいしそうに頬張るのは一見、穏やかなシーンなのだが、どうも泣けてくる。この温かい食事も、家族も、家も、黒崎にはない。それを色濃く映し出しているからだ。

 そして、思い出されるのは一家心中のこと。血だらけの包丁を持った父親が自分に迫ってくるのを、雨が降る夜道を歩きながら思い出す黒崎は、徐々に悲痛な表情になっていく。2つのシーンを交互に見せることで、自分が刺されるまでの恐怖を現在進行形で見せつけ、刺された瞬間の悲痛な叫びが現在の黒崎の叫び声となって繋がっているのが絶妙だ。黒崎の孤独や寂しさにとことん寄り添うことで、魅力的なドラマになっている。次のストーリーが待ち遠しい。(文・青石 爽)

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