■互いに幸せを願う湊斗・鈴鹿央士たち

『silent』は、自分の幸せより相手の幸せに重きを置き、登場する人物の全員がその優しさで生きているドラマだ。登場する人物は、優しさの塊で生きていて、相手がどうしたいかさえも分かってしまうような深みを持っている人たちばかり。だから、想が自分の病気のことで、誰かを悲しませたり気を遣わせたくないから連絡を絶っていたと知った時、誰もがその感情を痛みとして理解し、力になりたいと思った。

 湊斗(鈴鹿央士/22)も最初は抵抗があったけれど、想の現状を受け入れられたきっかけは、直接本人に、伝えたかったことが伝わった感動と交流が持てたことへの喜びが、抵抗感を上回ったからだ。そして、湊斗は「想、ほんと全然かわらないね」と言うのだが、それは現在の想が自分の感情や現状をすべて受け入れた8年後だったからといえる。

 想は、この8年で大好きなサッカーをやめ、友人関係すべてを断絶し、手話を習い、最小限の他人とのつきあいを持つことで、気持ちに折り合いをつけてきた。聴覚を失う悲しみや恐怖、大切な人たちを守るため、絶望的な寂しさを乗り越えて、今を生きている。そんな想が、『全然変わらない』のだとしたら、一周回って落ち着いたからだろう。

 そして、自分を変わらないと言ってくれた親友をうれしく思い、優しく微笑みんで「湊斗も変わんないね」なんて言えてしまうこの人が幸せになることを願うしかないのだ。そして、想と紬のことがどちらも大好きな湊斗にも、幸せになってくれないと困る。視聴者のすべてが、彼らの幸せを願い、静かに見守っている。(文・青石 爽)

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