■自分のために泣く人間がいる世界は存在する

 検事を志望する大学生・氷柱(黒島結菜/25)が、黒崎の過去を知ることで正義とは何か、疑問を持ちはじめた。

 黒崎の生き方を否定することにとまどいを感じ始めていたのを、詐欺被害で黒崎と接点を持つ父親・辰樹(船越英一郎/62)に相談する。辰樹は他人に優しいく、いいところに重きを置いて人と接しているのがポイントで、氷柱が黒崎の仕事を責められないと思う理由はなぜか考えてみるよう温かい目で見守る。こういう大人が近くにいるのといないのでは大違いなのだ。

 氷柱もよく考えて、黒崎の生き方に同情や哀れみだけではない、共感できる倫理的な部分を見つけることができた。「金で死ぬ人間がいるのに?」と黒崎が言った本当の意味を知って、詐欺師という生き方を、肯定も否定もできないと結論づけた。それは、自分が検事になってやりたいことと、黒崎が詐欺をやっていることの根本は同じだと感じたからだ。

 黒崎の苦しみを理解して涙を流す氷柱に驚く黒崎だったが、葛藤を抱えつつも信念を持って生きていれば、その考え方に共感する人は必ずいる。

 黒崎を演じる平野の、目標に向かってブレずに進んでいく姿、恩人との約束を守りたい想い。センターに立つ重責を負いながらも、結果を出し続ける仕事人であること。穏やかな人柄で、仕事においても自然体でいたいと思うフラットな感覚を持っていること。取材や撮影といった、一時的な仕事関係者にも見せる心遣い。平野の魅力を知り、エンターテインメントの世界で輝く平野をこれからも見ていきたい人たちがたくさんいる。平野のために泣く人間がこの世の中にたくさんいるのだ。(文・青石 爽)

  1. 1
  2. 2
  3. 3