■すべてを史実通りにすればいいわけではありません

 実は、新たな発見には大河ドラマが一役買っていることも多いんです。有名なのは、昭和44年に『天と地と』が放送されたときの話。ドラマの中で信玄の花押が映り、それを見ていた人が「あれと同じのが書いてある文書がうちにある」と鑑定してもらったところ、まさしく信玄の手紙! しかも文中に、それまで実在が疑問視されていた『山本菅助(勘助)』の名があり、存在していた証のひとつとなりました。

 今回時代考証をさせていただいている『どうする家康』でも、そんなことが起こるかもしれませんね。

 ドラマの時代考証という仕事は、ふだんの研究と違う点もあります。それが、できるだけ脚本家が書きたいものを実現できるように、史実を提供するということ。

『どうする家康』でいうと、まず、制作陣と脚本の古沢良太さん、時代考証を担当する僕と小和田哲男さん、柴裕之さんとで、設定についての会議をします。具体的には「こういう話にしたいが、ありうるだろうか?」というお尋ねに我々が答えるという感じです。

 前半部でもっとも時間を割いたのは「家康と信玄が会うことはできるか?」ということ。史実にはないのですが、さまざまな事柄を考え合わせて「この時期にこの場所だったら可能性はある」と提案しました。

 第1稿ができたらそれを読ませてもらって、「これはおかしい」「不自然だ」という点をお伝えして、それを元に再度練り直した脚本を、また検証。そうやって最終稿までたどり着きます。とはいえ、すべてを史実通りにすればいいわけではありません。大河ドラマは、史実を元にしたフィクションですから。先ほども言ったように、できるだけ脚本家が書きたいものを実現できるようにする、これが大事なんです。

 今年は僕もユーチューブを始めて、「確かに史実とはちょっと違うけど、制作の意図とドラマ作りの中でこういう設定にしたんだよ」みたいなことを発信していけたらと思っています。そうすることで、皆さんがもっともっと歴史を、大河ドラマを楽しんでいただけるとうれしいですね。

平山優(ひらやま ゆう)
1964年1月10日生まれ。東京都出身。立教大学大学院文学研究科博士前期課程史学専攻(日本史)修了。専攻は日本中世史。数多くの著書を出版しつつ、NHK大河ドラマ『真田丸』『どうする家康』の時代考証を担当。家康と信玄の新たな関係をひもとく『徳川家康と武田信玄』(KADOKAWA)が発売中。

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