■続編『好色二代男』は別人の作家が書いた!?
しかし、その大部分が西鶴の作品ではなかったという。大正から昭和にかけて活躍した著名な書誌学者、森銑三氏の説だけに注目された。
たとえば、西鶴が出版したとされる二作目の『諸艶大鑑(別名・好色二代男)』もその文章の表現方法などから、西鶴の手によるものではないという。
確かに、『好色一代男』の主人公世よ之の介すけの遺児を登場させるなど、その続編という趣向に仕立てているあたり、明らかに二匹目のドジョウを狙ったものだ。
森氏によると、書肆が続編の執筆を西鶴に断られたため、北条団水という別の作家に頼んで一代男の続編となるよう首尾の二章分を加筆させ、中間の三章分については数人の作家が寄合書(分担執筆)したものだとする。
真偽のほどは分からない。しかし、西鶴作とされる小説が同じ年に四冊連続して出版されたこともある。
前述の通り西鶴には速吟の才能があったというが、それでも年に四冊(ちなみに作品名は『近代艶隠者』『好色五人女』『好色一代女』『本朝二十不孝』)は難しいのではなかろうか。
今のところ、西鶴作と呼ばれる小説の中にゴーストライターの手によるものがあったかもしれないと言うにとどめたい。
跡部蛮(あとべ・ばん)1960年、大阪府生まれ。歴史作家、歴史研究家。佛教大学大学院博士後期課程修了。戦国時代を中心に日本史の幅広い時代をテーマに著述活動、講演活動を行う。主な著作に『信長は光秀に「本能寺で家康を討て!」と命じていた』『信長、秀吉、家康「捏造された歴史」』『明智光秀は二人いた!』(いずれも双葉社)などがある。