■“ヒートテックを送りたい”と大使館に連絡し…

――だが、一個人ができることには限界がある。デヴィ夫人ほどの人でも、最初は、どう行動すればいいか、見当つかなかったという。

 最初は何もできないと思っていました。しかし、ミサイルでインフラストラクチャー(生活の基盤となる施設)が破壊され、ウクライナの電力供給が50%に落ちてしまった。零下20度で凍死する人がいるかもしれないと思うと、居ても立ってもいられなくなり、“ヒートテックを送りたい”と大使館に連絡したんです。驚いたことに、すでに日本中からヒートテックが送られていて、倉庫に保管されているとのこと。見に行くと、膨大な数の寄付品が保管されていましたよ。

――自身と同じように胸を痛めて行動している人が大勢いたことを知ったデヴィ夫人は、物資を用意するのではなく、自ら現地まで支援物資を届けに行こうと考えた。

 日本国民からの、ものすごい数の“善意”がありました。しかし、運搬するお金がない。それでワタクシが、その費用を持とうと考えたんです。1月16日と23日に40フィートのコンテナを2個ずつ送りました。それでも、コンテナは2月末にしか届かないそうなんです。この寒さでは間に合わないと思い、まずはワタクシが今すぐ持って行けるものをスーツケースに詰め込んで、5人のボランティアと持って行きました。

――入国には時間がかかり、訪問した地はもちろん、戦争の真っただ中。当然、危険を伴っていた。

 戦闘地に行ったわけではないですが、翌日にミサイルが落ちて11人が亡くなり、40人が負傷している危険な場所ではありました。私は1962年にキーウに行っていますが、当時、見たオペラ、バレエ、美しい建造物が忘れられません。日本でいう奈良や京都みたいな場所。そんな美しい街にある劇場を攻撃して、350人を生き埋めにした。さらに車で逃げようとした人も車ごと焼き殺したんです。これはもう、戦争犯罪以外の何物でもありません。

■世界の暗い歴史も経験

――華やかな社交界だけではなく、世界の暗い歴史も経験してきた。戦争、クーデター、亡命……。デヴィ夫人は、それらを目の当たりにし、何を思ったのだろうか。

 動物の社会は捕食者と被捕食者に分かれますが、人間の場合、強者が弱者を襲って略奪し、領土を広げる。それは地球上に人間が存在したときから、変わっていません。“人類の歴史=戦争”なんです。たびたび日本で憲法9条について論争されますが、憲法は時代に合ったものでないと意味がありませんから、改正は当然です。武器を作る人がいる、それを売る商人がいる、それを買う人がいて、使う人がいる。いわゆる世界平和はありえません。それよりも世界秩序。その世界秩序を破ったのが、プーチン大統領です。スカルノ大統領は「ガイデッド・デモクラシー」といって、指導された民主主義を提唱していました。どれだけ理想を述べても、全国民が平等に「票」で採決するのは無理です。

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