■深夜ラジオ番組で「別の顔」
一方で、谷村さんには別の顔があった。72年から出演した深夜ラジオ番組『セイ!ヤング』(文化放送)のDJ“チンペイ”として、すでに若者から絶大な人気を得ていたのだ。
元文化放送のアナウンサーで、自身も78年より同番組のパーソナリティとなる吉田照美氏は振り返る。
「ばんばひろふみさん(73)とのコンビによる、『天才・秀才・バカ』というリスナーの投稿コーナーがめちゃくちゃ面白くて、めちゃくちゃ人気が高かった。その内容をまとめた本のシリーズも大ヒットして、出版社がビルを建てたとか」
同番組の人気を支えたのが、軽妙で明るいトークだった。
「ご本人もお好きだったので、そこは一貫していました。当時は、そういう存在があまりいなかったですから、男性も女性も聞いていたんですね」(前同)
ダンディな口調で「ビニ本を5000冊、所蔵している」と豪語するチンペイさんを、当時の青年たちは慕った。かつて本誌の取材に対しても、年季の入った“ビニ本愛”を語ってくれた。
〈(新宿にあったショップの)店長さんと気が合っちゃって(中略)それからちょこちょこ寄るようになって。そのうち、仕入れの相談まで受けるようになってね。店長がごはん食べにいっている間、“おれ、店番しているよ”と店番してた〉(本誌93年2月22日号)
なんと、武道館ライブを終えた、その夜にも店に顔を出し、臨時店員をやっていたというから驚きだ。
■情感豊かな楽曲を生み出す才能
「気さくな人柄に加え、情感豊かな楽曲を生み出す才能は天下一品でした。長唄の三味線の師匠だった母のもとで育った谷村さんが作る歌には、不思議と懐かしい、郷愁のようなものが漂った。だから、アジア各国で歌われている『昴』や、山口百恵に提供した『いい日旅立ち』のように、時代を超えて、定番ソングとして歌い継がれる曲が多いんでしょう」(音楽関係者)
音楽を架け橋に、日本とアジアの人々の交流にも尽力した谷村さん。夜空に輝く“昴”となった、偉大なシンガーソングライターに合掌。