一番大切な"うまさ"とは?

プロレスとは、昨今、誰でも理解しているとおりエンターテイメントスポーツだ。

観客を興奮させ、楽しませるためにレスラーは鍛え上げた肉体と技で白熱の攻防を見せ、フィニッシュへと向かっていく。いわば、過程を見せるスポーツであり、決められた"おおまかな流れ"に、レスラーの感性から生まれるアドリブが加わり、試合=作品が生まれる。

「私はレフェリーと同時にマッチメーカーも長らくやっていました。勝敗や試合の展開を、たとえば猪木さんが出る試合なら"フィニッシュを、こうしたい"といった意向を打ち合わせ、決まったら相手の外国人レスラーに伝えるんです。フィニッシュが決まっていると言っても、負けるほうも、そこまでは自分で考えて臨機応変に動かなければならない。これがレスラーに一番大切な"うまさ"なんですよ。下手なヤツとは"決められたこと"しかできない。うまい選手は、猪木さんを引き立たせて、観客を納得させ、自分をアピールしたうえで、フィニッシュ技を受けて負ける。あるいは、その週のテレビ放送で完結しないなら、観客の気を引きながらドラマを次週まで引っ張っていく。シン、アンドレ、ハンセン、ディック・マードック、ダイナマイト・キッドなど、一流と言われるレスラーはこうしたアドリブがみんな天才的にうまいんです。新日本プロレス黄金時代は、そうした頭の良い、センスのある外国人レスラーたちが支えていた。あの時期、悪役と言われる彼らの素顔に触れられたことは今でも私の宝物です。リングを下りれば、多くが心優しいナイスガイばかり。悪役レスラーたちのそんな素の姿を皆さんにお伝えできれば、と思っています」

本日の新着記事を読む

  1. 1
  2. 2
  3. 3