Bさん(77)は65歳で定年退職するまで、ごく普通のサラリーマンだった。妻と息子と同居し、蓄えは退職金を含めて2000万円。住居は持ち家で、ローンも完済している。これから、まさに"理想の老後"を過ごせるはずだった。
「ところが、息子が会社の上司とのトラブルから退職してひきこもりとなり、時を前後して妻にも先立たれてしまいました」(Bさん)
息子の稼ぎは当てにできず、頼れるのは月18万円弱の厚生年金だけ。2人分の生活費をやりくりするのが精いっぱいの金額だった。
「それでも貯金がありましたから、たまには現役時代に嗜んだゴルフを楽しむなど、老後をそれなりに謳歌していたんです」(前同)
だが、当然のことながら貯金残高は減り続ける。ゼロへのカウントダウンが聞こえ始め、
「これではいけないと思い、生活を切り詰め始めました。しかし、家事は妻任せでしたから、それがストレスとなり、酒に溺れ、肝臓を壊して入院生活が続くようになったんです」(同)
かさんでいく医療費。ついには、貯金を使い果たしてしまったというのだ。
マジメに勤め上げたとしても、安心はできない。口を開けて待ちかまえる"地獄の老後破産"は、なぜ無辜(むこ)の民を呑み込んでしまうのか。

その大きな要因が、年金だ。
BRICs経済研究所代表の門倉貴史(かどくらたかし)氏が言う。
「現在、国民年金の受給額は月額6万2800円ですが、その受給額水準は、かつての日本人の家族形態、つまり、老後は現役世代の家族と同居することを前提にして設計されています。となれば、一人暮らしの高齢者が、この金額で毎月の生活をやりくりしていくのは、かなり厳しい。しかも、毎月の年金から医療費や介護費の負担が差し引かれるため、食事などをギリギリに切り詰めないと、やっていけないんです」
還暦まで汗水たらして働いた結果がこれである。そのうえ、政府は今後、さらなる年金受給額の引き下げ、を含む"国民負担増"を予定している――。"恐怖の老後破産"は他人事ではないのだ。

それでは、10年後に定年を迎えるであろう"55歳からの防衛術"とは何か。門倉氏に訊くと、"老後破産予備軍"となりうる7つの条件があるという。

(1)親と同居していて親の年金に頼っている独身者
(2)子どもがニート・ひきこもりで、将来、自分の受け取る年金で家族全員を養わなければならないケース
(3)未婚のサラリーマンで厚生年金に加入しているが、報酬比例部分が少ない人(端的に言えば、給料が低い人)
(4)熟年離婚した人
(5)リストラされて現在は非正社員として働いている人
(6)貯蓄がほとんどない独身者
(7)メタボや持病を抱えている独身者
(1)は自分が働き、(2)は子どもを働かせる、(3)は婚活、(4)は妻を大事にする、(5)はどうしようもないが、(6)は頑張って貯金して、(7)は健康に気を配る――。
諦めるのはまだ早い。できることは、いくらでもあるのだ。

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