長さ100メートルの怪物体が接近

その一方で、次のような内容もある。
〈船が傾く前、船体に大きな「衝撃」が走ったという乗員乗客の証言がある。また救助船の到着前、沈みゆくセウォル号のすぐ近くに長さ100メートルほどの「怪物体」が突然現れ、間もなく消えたのをレーダーが捉えている。その正体は何なのか――〉
特に「怪物体」については、「韓国軍との合同演習に参加していた米軍の原潜ではないか」との説が、ネットなどで噂された。

一見すると、根拠の弱い陰謀論のようにも見える。
『セウォル号~』でも、郭氏はこの説についての判断を保留しているが、かといって荒唐無稽な絵空事として斬り捨てたわけでもない。
「なぜなら、捜査当局の主張こそが最もいい加減なものだからです。彼らは、船がバランスを崩して沈没したと分析した根拠について、具体的な数値や条件を公開しようとしない。検証不能な主張を事実と認めるわけにはいかず、したがって事故原因については様々な見方が残るんです。当局はまた、事故の当日には被疑者として警察署に留置すべき船長と船員らを、捜査幹部の自宅やホテルに泊めるという前代未聞の行動を取った。被疑者たちは、いくらでも口裏を合わせることが可能だったわけなんです」(前出・郭氏)

この"異常事態"に郭氏は憤りながら、事態のさらなる謎について解説する。
「さらにおかしいのは、セウォル号が事故の際に国家情報院に直接連絡するマニュアルを備えていたことです。国家情報院はスパイやテロ事件を扱う諜報機関であり、船舶事故の救難体系とは無縁の存在。旅客船がそんな組織と連絡を取り合うなど、普通なら考えられない。こんな事実が重なれば、韓国国民が"陰謀"の存在を疑うのは、むしろ当然でしょう」(前同)

冒頭で郭氏も述べているとおり、セウォル号沈没にまつわる疑惑は、初めて提起されたわけではない。
遺族団体を支援する弁護士グループは5月末、旅客船の運航管理や救難態勢の不備、海運業界と政官の癒着、事故後の不透明な捜査過程など、約100項目にも及ぶ「疑惑リスト」を報告書にまとめている。
私も取材の手掛かりを求めてこの報告書を入手したが、あまりに内容が幅広く、全容を把握するのに数日を要したほどだ。
しかも、『セウォル号~』で提起された疑惑の多くは、この報告書がまとめられた後、新たに暴き出されたものなのである。
その様を見守る遺族たちは、疑惑の渦に飲み込まれるような気持ちだったに違いない。

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