韓国で産経新聞の記事が絶賛

今年8月中旬、韓国・安山市を訪れた。セウォル号に修学旅行のために乗り込み、260人以上の生徒や教師らが犠牲となった檀園高校の地元だ。そこで聞いた遺族団体関係者の言葉に、私は思わず耳を疑った。
「日本の産経新聞は"あの記事"をよく書いたと思いますよ」
関係者の言う"あの記事"とは、8月3日付の同紙電子版に掲載された加藤達也ソウル支局長(当時)のコラムのことだ。
沈没事故の当日、朴槿恵大統領が7時間にわたり所在不明となり、その間に「男性と密会していたのでは」と匂わせたことが問題視された。その後、加藤氏を韓国検察が刑事訴追。11月27日にソウル中央地裁で開かれた初公判において、加藤氏は「独身の大統領についての男女関係の報道が名誉棄損にあたるか疑問」として容疑を否認した。

韓国人の間でも、検察の行き過ぎを指摘する声は少なくない。それでも、「記事の内容は別として」など、前置きするのが普通だ。産経新聞への手放しとも言える遺族団体関係者の"称賛"は、政府に対する強烈な不信感の表れに他ならない。
「あの団地では、同じ棟の20人近い子どもたちが亡くなりました。あっちの町内でも、同じぐらいの犠牲者が出ています……」
関係者は街を案内しながら、声を絞り出すように言った。同時に子どもを失った数百人の親たちが、毎日顔を合わせながら暮らす街の沈鬱さは、なんとも言い表し難いものがあった。関係者は語気を強め、続けた。
「疑惑について"根拠がない"と言うなら、政府は堂々と事実を明かせば良いんです。それをせずに言論を力で抑え込むのは、知られてはマズイことがあるからでしょう。こうなってしまった以上、政府など信じることはできない。だからこそ我々は"特別法"を求めているんです」

遺族たちの求めてきた"特別法"とは、民間の専門家が参加する委員会に強力な捜査権と起訴権を付与し、「聖域なき捜査」を行わせようというものだ。
民間に起訴権まで与えた事例は過去になく、政府与党だけでなく保守系のメディア、市民団体などが強く反発。一部では遺族に対する同情心まで吹き飛び、非難の言葉が飛び交った。

唖然とさせられたのは、特別法制定を求めてハンガーストライキを行う遺族代表の目前で、数十人でフライドチキンやピザを貪り食った右翼系の若者グループのパフォーマンスである。
その様子が報道されるや、良識ある人々が怒りを爆発させたのは言うまでもない。
韓国社会はセウォル号事件を受けて、分裂の危機に瀕していると言っても過言ではない状況にある。
「それでも国民の大部分は、事故の真相を解明することで襟を正そうと考えています。事故の背景に、"無責任さ"という韓国社会の構造的問題があったのは明らか。それを直視し、乗客たちの犠牲をより良い国作りにつなげなければならない。しかしながら、韓国の保守的な指導者層は、自分たちの既得権を守ることに汲々とし、事実を隠蔽している。自分で自分の体にメスを入れることを、拒否しているんです」(郭氏)

だが結局のところ、特別法は政府与党に押し切られる形で骨抜きとなり、遺族の望む「聖域なき捜査」は遠のいてしまった。
韓国は、このまま自浄作用が働かないまま、国ごと沈んでしまうのだろうか。
「遺族も私たちも、真相解明が短期間でできるものとは考えていません。韓国では子育ての環境が厳しいために少子化が進み、事故で犠牲になった高校生にも一人っ子が多かった。その親御さんたちは、"子どもの進学や結婚のために使うはずだったお金を、これからは真相解明のために使っていく"と決意しています」(前同)

権力の卑劣な圧力に屈することなく、遺族らがいつか真実をつかみ取ることを願いたい。

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