がん治療は貯蓄でまかなえる

ゆえに、子どもはすでに独立しているという中高年の場合、必要保障額はかなり少なくなる。
「子どもが社会人になるまで掛け捨ての死亡保険に入る価値はありますが、その後は相続対策でもない限り不用です」(後田氏)

また、住宅ローンで自宅を購入している人は必要保障額をさらに抑えられる。
「たいていはローンを組むと同時に、死亡または所定の高度障害に陥ると残債分が受け取れる『団体信用生命保険』に入っているので、返済の必要がなくなります」(小屋氏)

こうした必要保障額の試算は、医療保険を検討する場合にも有効だ。
小屋氏は、「公的な健康保険には『高額療養費制度』があり、年収が370~770万円の現役世代なら、1か月に数十万円の医療費がかかっても、自己負担額は9万円程度。病気やケガで会社を休んでも、1日につき被保険者の標準日額の3分の2に相当する額が『傷病手当金』として、最長1年6か月は受け取れます」

それゆえ万が一、入院することになっても、思ったより出費は少ないのだ。
「まずは国や、勤務先の健康保険の中身を理解しておくことが前提です。そのうえで、入院費用や治療中の生活費、収入の減少分がどれくらいかを試算し、必要保障額を出します。その金額以上の貯蓄があれば、わざわざ医療保険に入る必要はありません」(同)

そもそも中高年の場合、貯蓄で対応できる場合のほうが圧倒的に多いという。
「35~65歳における退院患者の平均在院日数は、全傷病で約30日、長いもので脳血管疾患の57日です。高額療養費制度を考慮すると、約18万円の貯蓄があればたいてい対応できます」(同)

では、大病の代表、がんの場合はどうだろうか。高額な治療費がかかるイメージもあり、『がん保険』には興味があるという人も多いことだろう。

これに待ったをかけるのが、後田氏だ。
「『アフラック』が、実際にがんにかかった経験のある人を対象に調査したアンケートでは、がん治療全般(入院・食事・交通費などを含む)にかかった費用は、50万円程度、もしくは100万円程度と答えた人が最も多く、全体の約7割を占めました。これは、貯蓄でもまかなえる額でしょう」
さらに、
「40歳の男性が向こう10年で、がんに罹患する割合は2%程度。64歳まで範囲を広げても、9割はがんにならないのです」

また、最近注目されている『先進医療特約』についても、
「重粒子線治療などの先進医療は、前立腺がんや肺がんといった一部のがん治療にしか有効ではなく、極めてレアケースなんです。年間約80万人ががんと診断されていますが、その中で先進医療を利用しているのは約3000人と、わずか0.4%に過ぎません」
特約が充実したタイプでは、払い込み総額が200万円になることもあるがん保険。不必要に不安をあおるCMや営業トークに踊らされず、冷静に判断したい。

一方、発生頻度は少ないが被害が大きいという点で備えておきたいのは、定年前に長期の寝たきりとなり、仕事ができなくなる場合だ。
高額療養費制度があるとはいえ、傷病手当の保障期間が切れ、収入が途切れるというリスクも想定される。
「これに対応するのが、就業不能状態に陥れば保険金が支払われる『就業不能保険』です」(小屋氏)

ただし、これには落とし穴もある。
「現職復帰が対象とは限らず、労働条件を下げたり、異業種に転職すれば働ける可能性がある場合は、保険金がおりないこともあります。支払い実績が不透明な点は否定できません」(同)
こうした、保険の"支払い条件"は盲点になりがちだ。

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