知らぬ間に住所変更される?

厚生労働省によると、情報流出を公表した6月1日までに行われた年金加入者などの住所変更は、109件あったというが、そのうち"悪意のある住所変更"がどれだけあるのかは、わかっていない。

さらに問題なのは、今回の流出事件に便乗して、情報流出とは関係のない人を騙(だま)す詐欺が、各地で横行していることだ。全国紙社会部記者が説明する。
「年金機構や警察の名をかたって、"あなたの個人情報が流出してしまいました"と電話。それから口座情報を聞きだして金を引き出したり、"手数料がかかるが、個人情報を修正できます"と金を騙し取ろうとする者が現われたんです」

警察庁によると、このような電話は判明しているだけでも、今月8日までに全国31の都道府県で183件あったという。
この事態を受けた日本年金機構は、流出してしまった本人への通知を、電話ではなく、すべて手紙によるものとしたのだが、
「詐欺グループの中には、すでに偽の手紙を作成して送付した組織までありましたから、これから多くの被害が出てくることが懸念されます」(同記者)

流出した125万人だけでなく、不特定多数の一般市民までを毒牙にかける"年金流出詐欺"――。そのターゲットが「明らかにシニア世代だ」と語るのは、これまで詐欺事件を起こした経験があるという広域団体の2次組織最高幹部の長澤氏(45・仮名)だ。

長澤氏は「詐欺で肝心なのは当然のことながら、どうやって騙すかだ」と話し、"不安"はその格好の材料なのだと言う。
「テレビや新聞で"気を付けてください""高齢者が狙われています"と毎日のように注意喚起されれば、多くの人が焦るだろ? そうして不安が高まった人間に"情報が流出してしまいました""危険なので、すぐに変更しましょう"とけしかければ、乗りやすいものなんだよ」

現在、韓国で流行中の感染病MERSでも、
「致死率50%を5%にまで引き下げられるワクチンがあるとか、特殊マスクを限定入荷したとか適当に話を作って、金を騙し取ることができる」(長澤氏)

このような、被害者に対面せずに電話や手紙などで金を騙し取る詐欺を「特殊詐欺」と呼ぶ。オレオレ詐欺や還付金詐欺、ギャンブル必勝法詐欺などが、その典型例だ。
ここ数年で特殊詐欺の被害は急増、過去最高となる被害額を記録した昨年は、約560億円もの金が裏社会にむしり取られたのだ。

「今年もその流れは変わらず、今年1~4月までに4739件の詐欺事件が発生し、その被害額は156億円に達しています」(前出の社会部記者)
このような特殊詐欺グループに日本年金機構から流出した個人情報が流れている可能性があるため、2次被害、3次被害と拡大する可能性もある。

さらに、「特殊詐欺に一度引っかかると、より狙われやすくなる」と警告するのは、警視庁OBで犯罪ジャーナリストの北芝健氏。
「実は、詐欺に引っかかったことのある高齢者だけをまとめた"名簿"が裏取引されていて、一度騙された人を何度でも引っかけようとするんです」

出会ったが最後、蟻地獄のごとく金を搾り取られるなどという悲劇に遭う可能性を少しでも低くする方法を、特殊詐欺に詳しい紀藤正樹弁護士が話す。
「実は、留守番電話がすごく効果的なんです。詐欺集団は留守録を嫌がって、電話を切ってしまいますから、常に留守番電話にしておき、電話が来た場合は、相手の声を聞いてから出るといいと思います」

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