「普段の献立は一般家庭でも」

なお、両陛下が口にされる料理の食材のほとんどは栃木県高根沢町にある宮内庁御料牧場で生産されている。東京ドーム54個分(約252ヘクタール)の広さがある御料牧場では牛、豚、鶏、羊が放し飼いにされており、新鮮な牛乳、バター、ヨーグルトの他、ハム、ベーコン、ソーセージなども作られている。
「また、野菜は無農薬の自然栽培で、肥料は馬の堆肥に有機肥料を混ぜたものを使用しているとか。もちろん調味料はすべて天然物で、化学調味料は一切使いません。ただし、魚だけは新鮮な旬の食材を築地の魚屋さんから取り寄せています」(女性誌皇室担当記者)

意外なことに、食卓に提供されるのは、マグロ、タイ、ヒラメなどの高級魚よりも、アジ、イワシ、サンマといった大衆魚のほうが多いくらいだという。
料理研究家の新井陽子さんが解説する。
「陛下が召し上がるものと同じ品質の食材は、私たちにはなかなか入手できませんが、普段の献立自体は一般の家庭でも作れるようなものばかりです」

ある日の陛下の料理を、新井さんに家庭料理としてアレンジして、再現してもらった。なお、参考としたのは、『昭和天皇と鰻茶漬』(谷部金次郎著・河出文庫)だ。
「今回作ったのは、カレイの竜田揚げ、滷肥肝(るいちんかん ※レバーのあんかけのこと)、白花豆と昆布の味煮、カマスの吸物、麦ご飯です。ウリの奈良漬は市販のものを使用しました。実際に作ってみると、思っていた以上に、栄養のバランスが取れた料理であることに驚きました。塩分は控えめだったそうなので、味付けはあっさりした京風にしましたが、高タンパク低カロリー。野菜も豆類も海藻類もしっかり摂れています。麦ご飯も、白米よりミネラルなどが豊富なのでお勧めです」(新井さん)

昭和天皇は麦ご飯を常食にされていたが、
「戦後、食料難に苦しむ国民の姿に心を痛めた天皇陛下は、自ら麦入りのご飯をご所望になったそうです。以来、麦ご飯を召し上がるのが、天皇家の新たな伝統になりました」(前出の皇室ジャーナリスト)

ただし、ご飯を炊く際も大膳課では米を研いだあと、水を切ってザルに上げた米粒を一粒ずつチェック。箸で異物を取り除いてから炊くのが決まりごとになっているそうだ。
ちなみに、麦ご飯をおいしく炊くコツは、
「塩をひとつまみ、日本酒を大さじ1杯加えて炊くとパサつかず、しっとりと炊き上がります」(新井さん)

昭和天皇も今上天皇も、お食事に関しては出されたものをお召し上がりになるのが基本で、「あれが食べたい、これが食べたい」と言われることは決してないが、それでも、「ごくたまにウナギや寿司など店屋物を老舗からお取り寄せになることはある」(前出の女性誌皇室担当記者)そうだ。

魚もアジ、イワシ、サバ、サンマなどの青身魚を召し上がることが多いが、
「天皇家の食卓では、"お皿に盛り付けたものはすべて食べられる"のが大原則です。魚料理は背骨や小骨を取り除いたうえで、元の形に整えてからお出しすることになっています」(同記者)

ただし、公務の多い天皇陛下は、もしものことを考慮して、めったに刺身など生魚を召し上がることはないのだとか。
またチャーハン、餃子、シューマイなどの中華料理が、天皇家の食卓を賑わせることも珍しくないそうだ。

一方、洋食はどうかといえば、主菜に牛フィレ肉のロースト、合鴨の赤ワイン煮、ニジマスのバターソテー、若鶏刻み肉のパイ生地包み焼きなど、いかにも高カロリー、高コレステールなメニューが多いが、
「量はさほど多くないですし、副菜に野菜をたっぷり使っているので、意外にヘルシーと言えそうです」(前出の新井さん)

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