"分裂維新"めぐる与野党攻防

退くも地獄、進むも地獄――どちらに転ぼうとも、安倍政権は正念場を迎えている。こうした状況を政界では"政局前夜"と呼ぶが、"川に落ちた犬は石をぶつけて沈める"のが永田町の常道。そこかしこから謀叛の火の手が上がり始めたのは、当然の成り行きだろう。

「これまで重箱の隅をつつくことしかできなかった民主党が、にわかに勢いづいてきましたね。維新の松野頼久代表に急接近、来年夏の参院選を睨み、"野党再編"を模索する動きを開始しました」(前出の浅川氏)

政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏も、野党陣営の"発情"を指摘する。
「民主党の某議員が執行部から密命を受け、松野氏が率いる維新国会議員団や、野党再編に執念を燃やす生活の党の小沢一郎代表、さらには社民党との連携に向け、動き始めています」

その試金石と見られているのが、今夏秋にかけての岩手、埼玉両県知事選だ。
「ここで野党が統一候補を立て勝利を収められれば、そのまま野党大再編が進展する可能性も」(鈴木氏)

民主党執行部も鼻息が荒い。安倍首相が執着する安保法案を"戦争法案"と断定。さらには"徴兵制復活"と大書きしたパンフレットを量産し、全国にバラ蒔こうとした(一部は発送したが、途中で中止)。「安倍首相=戦争屋」の露骨なネガティブキャンペーンを大々的に展開し始めたのだ。

「民主党の細野幹事長は、自身のブログに娘を登場させ"(徴兵制は)彼女たちにとっては現実"と喧伝。さらに同党の寺田学衆院議員などは、国会の特別委員会で"(妻が)1歳の長男が将来、徴兵制に取られるのではないかと怖がっている"と言い、安倍政権を追及しています」(前出のデスク)

そんな中、「ソーリ、ソーリ」の辻元清美・民主党政調会長代理と、「仕分けの女王」こと蓮舫・民主党代表代行の両氏もいきり立ち、「わたしこそは安倍政権を打倒する(救世主)ジャンヌ・ダルク!」とばかりに威勢がよい。
「ただ、彼女らの追及は結局、重箱の隅をつつくだけのもの。知名度があるため、取り上げられていますが、何の効果もない。それよりもカギを握るのは維新ですよ」(前出の自民党関係者)

維新は現在、松野代表率いる国会議員団(東京派)と、橋下徹最高顧問グループ(大阪派)に二分している。
「前者は民主党や旧みんなの党出身者が中心で、政策的には安倍政権とは水と油のため、民主党との連携を考えています。一方の大阪派は安倍政権に近い考えのメンバーが多いため、政権は維新を分裂させ、大阪派を与党の補完勢力に取り込む考えです」(同関係者)

6月14日夜、都内のホテルで安倍首相、菅官房長官らと会食した橋下最高顧問は、「(首相悲願の安保法制成立に)後方支援を約束」。安倍首相寄りの姿勢を鮮明にしたともいわれる。
獅子身中の虫――自民党内もざわつき始めた。先だって、自民党若手リベラル議員27人が『過去を学び"分厚い保守政治"を目指す若手議員の会』を発足。「彼らは、安倍政権に"穏健な保守こそ自民党の進むべき道"と訴え、口々に"自民党にも多様な意見があることを知ってもらいたい"と、反安倍を公言しています。
ちなみに、同会を警戒して安倍首相側近が勧誘してできたのが、報道規制などの問題発言を連発した"安倍親衛隊"だったんです。ところが、これが完全に裏目に。安倍官邸の心中は穏やかではありませんよ」(前出の自民党関係者)

自民党ハト派の宏池会メンバーが多数を占めている『分厚い保守政治を目指す若手議員の会』。
「当然、裏で指示を出しているのは、宏池会名誉会長の古賀誠(元党幹事長)と見られています」(同)

この古賀氏、安倍首相を公然と「愚かな坊ちゃん総理」と批判。政権発足から終始一貫して、反安倍の急先鋒となっている。「古賀さんの切り札は反安倍を鮮明にしている野田聖子前総務会長。9月の総裁選で反安倍決起の狼煙をあげる日を心待ちにしているようです」(前出のデスク)

党幹部のお歴々、石破茂地方創生相、谷垣禎一幹事長、二階俊博総務会長らも蠢き始めたという。
「石破氏は、すでに地方創生の法案はできあがっているため、もはや同職に未練なし。谷垣氏は安倍政権の幹事長ですから、"逃げ出すタイミング"を誤れば連帯責任で、ともに沈む。今は脱出の準備をしているところですね」(同)

一方、党内で安倍首相に直言できる唯一の人物とされるのが、二階派を率いる二階俊博総務会長だ。
「親中韓派の二階氏は安倍さんとは水と油。9月の総裁選では安倍氏支持を早々に表明していますが、今後、内閣支持率がさらに下がるような事態があれば、即座に反安倍の旗頭として立つはずです」(同)

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