深層 3 グリコ以外、森永などはカネ目当て

では、それ以降の脅迫に関しては、何を意味しているのだろうか。
「グリコ以外はカネ目当てですよ。まあ、仮にグリコ脅迫において、噂されている裏取引が成立していたのだとしたらの話ですが、ほかの食品企業でもカネを引っ張れるんじゃないかと考えたのかもしれません。特に、森永は狙いやすかったんでしょう。こちらは"製菓"ではなく、"乳業"の話ですが、ヒ素ミルク事件があったでしょ」

森永ヒ素ミルク事件とは、1955年に起きた食物中毒事件のこと。粉ミルクの製造過程で用いられる添加物に多量のヒ素が含まれており、1万3000人以上の乳児がヒ素中毒になり、約130人が死亡した事件だ。実際に、犯人から読売新聞社(週刊読売編集部宛)へ届いた挑戦状には、
「森永 まえに ひそで どくの こわさ よお わかっとるや ないか」
と記されており、この事件がヒントで狙ったとしている。

「この事件だって謎ですよ。単なる事故と言われていますが、もしかしたら、森永に不遇を受けていた誰かの怒りが爆発して、工業用の薬品と食品添加物をすり替えた可能性だってある。そう犯人は考えて、森永もグリコと似たような暗部を持っているはずだから、狙えると思ったんじゃないか」

犯人グループは脅迫状の中で、億単位のカネを要求している。しかも、前述のように、グリコからは6億円で話をつけたとも。これについての真偽のほどは確かめられないが、彼らが莫大なカネを必要としていたのは確かだ。
「端緒がグリコへの怨恨だったとは思うんですが、私が想像するに、リーダー格の人間は別のことも考えていたんじゃないかな。たとえば、こうです。リーダー格の人間は、とある巨大組織の上層部の人物で、その組織の中の一集団がグリコへの報復を計画しているのを知り、それを利用してグリコからカネを引っ張ろうと考えた」

だから、グリコに恨みを持つ集団に、組織内の他の集団から精鋭を送り込んで、何がなんでも報復を成功させようとした?
「それが成功したから、次々と標的を変えて、同じ手法で脅迫を繰り返したのかもしれない」

それほどまでに莫大な資金を必要としたのなら、その真の目的はなんだったのだろうか。
「その巨大組織が、一大事業を抱えていた、もしくは起こそうとしていたんじゃないでしょうか。もしそうなら、バブル期以降に急成長、もしくは急激に潤った企業のバックに、この組織がついていた、なんてことがあるかもしれない」

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