「日中首脳会談」では笑顔なし

そんな中、対中強硬派の安倍首相と、当初は対日穏健派と見られていた習主席が登場。日中関係の行方が注目されたが、その幕開けは衝撃的なものだった。

13年1月30日、尖閣諸島の北西百数十キロの公海上で任務に就いていた海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に、中国海軍のフリゲート艦が射撃管制レーダーを照射したのだ。レーダー照射は、世界の海軍の常識では「弾丸の入ったライフルの照準を合わせること」(海自幹部)とされ、戦闘準備行為と見なされている。

「第一報を受けた際、安倍首相は気色ばんだといいます。ただ、怒りが爆発したのはそのあと。海上幕僚監部と防衛省のブリーフィング(事情説明)がきっかけです。その席上、防衛省幹部から"過去にもレーダー照射を受けていた"ことを打ち明けられたからです」(前出の官邸詰め記者)

当然、日本政府は厳重な抗議を行った。
「すると、中国は"そんなことはしていない。日本側のねつ造"とゴネたんです。そこで、安倍官邸が完全な証拠資料を公表する姿勢を見せるや、形勢不利と見て以後、沈黙してしまったんです」(前同)

泣き寝入りは、傍若無人な国家をつけあがらせるだけ。安倍官邸は正しい決断を下したと言える。ただし、懲りないのが中国という国。同年11月には突如として、日本の領土である尖閣諸島上空を含むエリアに防空識別圏を設定したのだ。
「防空識別圏は領空ではありませんが、"この空域は自分たちが管理する"という意味を持ちます。ここを飛行する航空機は事前に中国に機種や目的、飛行計画を提出しろというわけです」(軍事記者の黒鉦(くろがね)英夫氏)

これには、同空域を活動エリアとする米軍も激怒。また、韓国や台湾、オーストラリア、EU(欧州連合)も「力による現状変更は許さない」と、世界中で中国への非難が巻き起こった。
現在、南沙諸島で軍用機の発着が可能な滑走路を備えた人工島を建造中の中国。これを受けて、周辺国の対応も加速している。

「ベトナムはロシアからキロ級潜水艦を購入、フィリピンは中国を国連に提訴し、米軍の再駐留を認める法案を通過させました。自衛隊は南西方面に戦力を移動中。島嶼(とうしょ)防衛を担う専門部隊である水陸機動団も、近く新設されます」(前同)

このように、東アジア全域に"対中包囲網"が敷かれる中で開催されたのが、初の日中首脳会談だった(14年11月)。
「北京で開催されたAPECの日程を縫って実現しました。会談はわずか25分で終了し、お互い"腹の探り合い"といったところでした。日中関係の改善に努力することで合意しましたが、会談は実りあるとは言い難いものでしたね」(通信社記者)

同会談はぎこちないものとなり、習主席は会談時、「笑顔はなく、つとめて仏頂面だった」(前同)という。
攻める中国、守る日本。国際法を無視した中国側の動きに、是々非々で対応してきた安倍政権。ただ、こうした"力学バランス"に変化が生じているという。

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