そして、抗がん剤治療の最終兵器とも言えるのが、東京工業大や東大などの研究グループが開発し、昨年6月に発表された『ナノマシン』だ。「ナノマシンは50ナノメートル(1ナノメートルは1億分の1メートル)のカプセルのようなもので、これに抗がん剤を閉じ込めて、がん細胞に運ぶんです。これの利点は、ピンポイントでがん細胞に届くので、他の細胞への影響がないということです」(牧氏)

 なぜ、ピンポイントで届くかといえば、その秘密は50ナノメートルというサイズにある。「血管には細胞に養分を送り込む極小の孔(あな)があるんですが、がん細胞のそれは通常の細胞のものよりも大きいんです。50ナノメートルは、がん細胞の孔に合わせたサイズ。しかもカプセルを形成するリン酸カルシウムは、酸性のがん細胞でないと溶けない仕組みになっているそうです」(前出の専門誌記者) さらには、このナノマシンに、中性子線を当てるとガンマ線を放出する物質を投入し、それに中性子線を照射してピンポイント治療する研究にも取り組んでいるという。いわば、がん治療の“誘導ミサイル”だ。これまで紹介してきた治療法が、さらに普及、あるいは実用化すれば、がんが“死なない病気”となるのも夢ではないように思える。

 だが、そう一筋縄ではいかないのが、がんが長年、不治の病といわれてきた理由。がんには“再発”という最大の難関があるのだ。「再発を防止するには早期発見、早期治療しかないといわれています。これがかなえば、再発率が格段に下がっていますから」(前同)

 確かに、冒頭で紹介した10年生存率でも、率の高い部位のがんは比較的、早期発見がしやすいもの。反対に、率の低い部位のがんは、早期発見が難しいものといわれている。「最近は、がん細胞が多く取り込むブドウ糖に放射性物質をつけ、PET(放射線を特殊なカメラで捉えて画像化する医療機器)で計測するPET健診もあります。これなら自覚症状がなく、発見も難しい膵臓がんや肝臓がんの早期発見も可能です」(牧氏) ここまで進んだ「がん治療最前線」。これで、がんはもはや怖い病気ではなくなった。だが、そのために一番重要なのは、定期的に自分の体をチェックすることと、そして何より、免疫力を落とさないための健康管理なのではないだろうか。

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