元神奈川県警の捜査員で、犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が、こんなケースを明かしてくれた。「今、一番多いのは、息子を装う男からの“会社のカバンを落とした”という電話です。その中には、会社の通帳の他に、自分の携帯電話も入っていて、“もし、カバンが見つかったら警視庁の遺失物センターから、そっち(実家)に電話がかかってくるから”とだけ最初に告げるのです」 いきなり“母さん、助けて”ではないのだ。その後、警視庁の遺失物センターを装った別の者から、親の元に「カバンが見つかりました」と電話が入る。そして再び、偽の息子から電話があり、「ありがとう。警視庁で無事にカバンを受け取ってきたよ。助かった~」

 こう安心させつつ、「ただ、実はちょっと問題があって……」と話が続くという。「カバンを落とした時点で、会社の通帳をストップしてしまっていて“明日になればお金を下ろせるけど、今日中に1000万円入金しなくてはいけない案件がある”と言い出すのです。かなり怪しいですが、ここで今度は、上司を名乗る男性が出てきます」(小川氏)

 その上司の話はこうだ。「今、自分の母親に相談したら500万貸してくれることになりまして。自分が100万、息子さんも100万は用意できるということなんですが、あと300万足りないんです。恐縮なのですが、お母さん、なんとかできませんかね? 明日には、すぐ返せますので……」 全額ではなく、その一部を負担してほしいというのだ。しかも上司が電話に出てくることで、被害者は、「息子の上司の親まで金を出しているんだから、ウチが出さないわけにはいかない。もともと息子がカバンを落としたことが原因だから、という“親心スイッチ”が入ってしまうのです。もちろん、お金を取りに来るのは例の上司=高齢者の受け子です」(前同)

 年配の人を受け子に使う理由は当然、若者に取りに行かせるより、リアル感を与えられるからだ。この話を聞いて、背筋が冷えた思いをする読者もいるだろうが、さらに、知らない間にシニア層が加害者になっているという事件も起こっている。今年1月末に発覚したのが、それだ。「犯罪グループは東日本大震災の復興支援のNPO関係者を装って、80代の女性2人にそれぞれ電話。どちらにも被災者救済と謳い、仮設住宅購入のための“名義貸し”を依頼したのです」(前出の捜査関係者)

 ちなみに、この2人の年配女性はまったく面識がない。住んでいる地域も、大阪と横浜と遠く離れている。しかし、2人とも親切心から名義貸しを了承。するとその後、2人は別の人物から、「名義貸しは犯罪。逮捕を防ぐには金がいる」と脅しをかけられたのだ。今までなら、ここで銀行にお金を振り込ませる――となりそうだが、「犯罪グループは大阪に住む女性に“900万円を宅配便で送れ”と、横浜の女性宅に送らせたんです。対して、横浜に住む女性には“あなたを逮捕から守ってくれる人がいるから、その人のために、送られてきた荷物を受け取れ”と指示。そして、横浜の女性宅に届いた荷物を犯罪グループの受け子が回収し、900万円を手に入れたというわけです。銀行振り込みや私設私書箱に現金を送付させる方法と違って、これなら証拠が残りにくいのです」(前同)

 現金被害は当然避けたいが、詐欺の片棒を担がされるなんて、たまったものではない。さらに、老人ホームや介護、年金などに関する詐欺にも、高齢者が加担する事案が増加している。「老人ホームに入居したくても、なかなか空き部屋がない。そんなとき、自分と年齢の近いシニア男性が知人の知人を名乗って電話。“老人ホームを探していると聞きまして。本日中に200万用意してもらえれば、権利を取得できます”などと持ちかけてくるのです。若いセールスマンだと疑わしいけど、シニア同士のやり取りなので、つい信じてしまう。それに、老人ホームの空きが少ない地域では、“子どもに迷惑を掛けられない”と余計必死に食いついてしまうのです」(同)

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