「その場合、名古屋の1位は確実に福士より優先順位が上になります。しかし、要素として“選考会での優勝”も評価するなら、少なくとも名古屋の2位よりは大阪1位の福士が上という考え方もできます。実は、ここでタイムと順位のどちらを優先するという明確な基準がないため、“わずかに落選もありえる”という酒井氏の発言を生んだんです。まあ、実際、この記録を超える選手が、そう簡単に現れるとは思えませんが」(陸上専門誌記者)

 少なくとも、福士以外に優先順位が上の選手が現れる可能性があることは分かるが、前述の(3)の選考基準に明確な優先順位がないとなると、ややこしいことこのうえない。陸連の元副会長・澤木啓祐氏は、古巣を一喝する。「選考基準の考え方について選手に丁寧な説明をしないから、陸連はいつも不信を招くんです。今回も、設定記録のことを本人や監督に丁寧に説明していなかったんでしょう。これじゃ、誰でも混乱しますよ」

 そしてその後、特に双方の話し合いもないまま、21日には麻場一徳強化委員長が「名古屋に出ることは避けてもらいたい」と発言。これを受けて不信感を募らせた福士は25日、正式に名古屋にエントリーした。「それはそうですよね。“内定ライン”だと思っていたタイムが別にそういうことではなく、何の手形ももらえないわけですから。可能性は限りなく低いですが、仮に名古屋で2時間20分で走る日本人女子が2人出たら、自分は落選するかもしれない。だったらもう一度走って、自力で代表の座をもぎ取ると言うしかないですよ」(五輪代表候補にもなった元選手)

 福士への同情と陸連のあいまいな基準への批判が広がる中、27日に陸連の尾縣貢専務理事が「彼女は五輪で戦えるという認識で一致している。(選考ルール上)内定は出せないが、万全の状態で五輪に向かうようにしてほしい」と語り、それまで木で鼻をくくったようだった陸連側の態度に変化が見え始めた。「そして3月1日、福士側が名古屋への不参加を発表。公式に内定通知があったとは聞きませんが、世論や陸連側の軟化、名古屋の出場者などを鑑み、代表入りは確実と見たんでしょう。実際、ここまで批判が高まったら、よほどのことがない限り、陸連は福士を代表に選ばざるをえませんから」(前出のスポーツ紙記者)

 ある意味、福士サイドの粘り勝ちとも言える結末となったのだ。「まだ公式な発表はないとはいえ、ほぼ“当確”と目されています。しかし、今回の騒動で、改めて陸連の不明確な選考方式が問題となりましたね」(前同)

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