そう、陸連の不可解な選考は、これまでに何度も波紋や議論を呼んできた。「有名なのは、1992年のバルセロナ五輪女子マラソンの選考。初マラソンの松野明美が大阪国際女子マラソンで当時の日本記録を塗り替えて2位に入ったにもかかわらず、前年の世界陸上4位(日本人2位)でタイムも劣る有森裕子に代表の座をさらわれた。当時の世界陸上の内定ラインは“3位以内”だったうえに、有森がその後の選考レースにも出場せず、“選考基準を何だと思っているのか”“恣意的すぎる”と、批判が相次ぎました」(前出の専門誌記者)

 結果的に、有森が五輪で銀メダルを獲ったことで批判はやんだが、自ら定めた基準を平気で破る陸連の“二枚舌選考”の例は、これだけではなかった。「同じバルセロナでは、男子でも森田修一が選考レースで1位になりながら、他の選考レースの1、2位にタイムで負けて落選。96年のアトランタ五輪の選考レースでも、鈴木博美が大阪で日本人最速タイムを出しながら、2位だったからという理由で落選。ここで選ばれたのは、またも有森でした」(前同)

 問題なのはやはり、その基準となる指標が統一されていないこと。森田の場合はタイム、鈴木は順位が理由とされた。松野のケースに至っては、まったくもって意味不明だ。「伊藤舞がリオ代表に内定した昨年の世界陸上代表を選ぶ際にも、3つの代表選考レースで、ただ一人優勝した田中智美が落選するという事態が起きています。その理由が、あろうことか“序盤のレース運びが消極的だったから”。言うまでもなく、マラソンは結果がすべてです。田中は勝つために、レースの中で駆け引きをしたにすぎない。これでは、勝ちに行くなと言っているようなものですよ」(民放局スポーツ記者)

 確かに、前述の選考基準を改めて見ると、やはり①の基準は順位で、(2)はタイム。(3)に関しては、もう何でもアリで、統一基準など、なきに等しいのだ。「結局、タイムなのか順位なのか、陸連に定見がないから、恣意的な選考がなされてしまうんです。当然、選手の側も、代表になるために何を求められているのか、分からないままトレーニングをすることになる。きわめて非効率です。陸連が曖昧な選考を繰り返すかぎり、五輪や世界大会のたびに無用な混乱が生じ、強化の遅れにもつながりますよ」(JOC関係者)

 加えて、陸連の懐事情もこの曖昧さを生んでいる。「選考レースを1つにしたり、評価をポイント制にしたりすれば、もっと透明性のある選考もできる。ただ、陸連としては、代表の確定を最後まで引っ張って、すべてのレースを注目させないと、スポンサーが集まりませんからね。4年に一度のかき入れ時を逃さないためには、むしろ明確な基準を設けず、なるべく“千秋楽”まで盛り上げたい。その発想がある限り、代表選びでモヤモヤさせられる事態は今後も起こるでしょう」(前出の元選手) いずれにせよ、懸命に走る選手に罪はない。だが、“先導車”のはずの陸連がブレブレでは、選手も安心して走ることなどできはしないのだ。今度こそ、騒動を教訓としてもらいたい。

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