では具体的に、どう努力、工夫すればよいのか? まずは、午前0時までに寝ることだという。「睡眠の重大な役割の一つである、壊れた細胞の修復や再生は、“成長ホルモン”が担っています。その成長ホルモンが最も分泌されるのが、寝ついてからの約3時間なんです」(同)

 働き盛りの中高年世代は、早い時間に布団に入るのは難しいが、それでも、どうにか午前0時までにベッドインするのが望ましいというのだ。それから、朝10時までに、太陽の光を浴びることが必要だという。前述の松果体から分泌されるホルモンの一種に「メラトニン」がある。メラトニンは別名“睡眠ホルモン”と呼ばれるほど、睡眠と密接な関係がある。「メラトニンは朝、太陽の光を浴びると一気に分泌が減ります。そして、光を浴びてから14~16時間後、つまり朝7時に起きたとして、午後9~11時頃に量が増え始め、それとともに眠気が強まって“安眠”できるんです」(同)

 また、睡眠時間は7時間がベストだ。過去の多くの調査で、睡眠時間は7時間より短すぎても、逆に長すぎても、死亡率が高くなることが分かっている。「ただし、これはあくまで一般論。睡眠とは極めて個性的なもので、私が訪問する老人保健施設の100歳を超える長寿の人の中には、2日眠って2日起きている方、1度に16時間ほど寝て2~3日起きている方もいますから」(同)

 一方、睡眠中、「大きなイビキをかく」「毎晩のように寝言を言う」といった症状が見られる方は、重大病の可能性があるという。「大きなイビキは、寝ている間に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群、寝言は、レム睡眠行動障害という病気である可能性があります。前者は重症だと窒息状態に陥るため、寿命を縮める可能性がありますし、後者は一部の患者だとは思いますが、認知症を引き起こすことがあるんです」(同) そういった症状が出た場合は迷わず、専門家に診てもらうのがいいだろう。

 では、次に日常生活で簡単にできる、より質の高い睡眠を得るための具体的な対策を聞いてみよう。「起床時刻の2時間内のズレならば、“寝だめ”は可能です」(同) たとえば、月曜から金曜まで残業で、いつもより1週間で睡眠時間が計6時間減ったとしよう。その場合、週末の土・日に、ふだんより1時間早めに寝て、朝は2時間遅く起きることは有効だという。ただ、来週から忙しいので、先に余分に寝ておこうという寝だめは無理だ。「しかし、睡眠不足から来る眠気の元である“睡眠物質”を、余分に寝ることで解消することは有効です。ただ、起床時間がふだんより2時間以上ズレると、体内リズムが狂ってしまい、翌日以降、寝つきが悪くなったり、睡眠の質が低下するので要注意です」(同)

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