それにしても、従来よりもずいぶん思い切った、しかも具体的な提案をするものだ。そこには、安倍首相側の事情も見え隠れする。「円高に歯止めがかからず14年10月の為替水準に戻ってしまい、これによって、大手企業の決算は下方修正。当然、株価も下落し、国民から“アベノミクスは失敗だった”との声が上がり始めています」(前同)

 これでは、7月に予定されている参院選を思うように戦えない。「安倍首相が北方領土問題の事務レベル協議を6月に開始することにこだわったのは、7月の参院選前に、北方領土問題でさらに一歩前進したという印象を国民に与える狙いがあったからだと思われます」(政治評論家の浅川博忠氏)

 選挙対策としての外交成果が欲しい安倍首相と、懐事情が苦しいプーチン大統領。利害が一致する両者が“ひと芝居”打ち、問題の大きな進展をアピールする狙いがあった。経済協力は、その芝居の“ギャラ”ということなのだろう。「安倍首相の第一の目的は、やはり自らの手で改憲を実現すること。そのためには、まずは次の選挙で勝つことが大命題ですからね」(前出の浅川氏)

 その目論見はひとまず置いておいても、今後の協議で本当に北方領土が帰ってくれば御の字だが、はたして、そんなにうまくいくものなのだろうか。「首相は、これはこれで本気だと思いますよ。事実、首脳会談後、“今までの発想にとらわれない新しいアプローチで交渉を進めていく”と語りました。“4島を一括返還”というのが日本政府や外務省の大方針ですが、この安倍発言は“4島返還という形式にこだわらない”という意味にも取れる。つまり、2島や3島を先行返還という形でもいいということ。2人きりの会談の際、それをプーチン氏に伝えている可能性があります」(前出の外信部記者)

 これはもともとロシアに強力なパイプを持つ、安倍首相の“大ボス”森喜朗・元首相の腹案でもあったが、これまでは従来の政府方針に則り、公式にはその選択肢を排除してきた。「しかし、首相としては結果を出すためになりふり構ってはいられないと判断したんでしょう。前々から“領土交渉には引き分けしかない”と唱えるプーチン氏がこれを拒む理由はありませんし、実現可能性は確かにグンと高まります」(前同)

 また、そのプランも、すでにさまざまなものが発案されているという。「各島単位で徐々に返還するというものから“両国がだいたい等面積になるよう、東経147度線に沿って国境線を引く。択捉島が分割されるが、島民や法人は自由に行き来できるようにし、関税を廃して経済交流の拠点とする”というものまで、さまざまなオプションの検討に入っているようです。今後、6月から9月にかけて、こうした選択肢を検討していくことになると思いますよ」(外務省番記者) だが、前出の小関氏は、安倍首相の外交手腕に少なからぬ不安を覚えるという。

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