また日常生活の中にも、たけし流の礼儀がある。あるとき、たけしは、「世間一般の感覚を忘れないため」と、ラッシャー板前を連れて、電車に乗って本屋に本を買い行ったという。「車内は人もまばらで、優先席が空いていたんですが、たけしさんは“俺らみたいなのは、こんな席には絶対に座っちゃいけないんだよ”と言って座ろうとせず、ずっと隅っこに立っていたそうです」(お笑い関係者)

 このようにヤンチャしながらも常に先輩、後輩、そして世間への礼儀を忘れないたけし。“関東芸人の父”と呼ばれ、多くの人気芸人を育ててきたブッチャーブラザーズのリッキー氏も、彼を慕う一人だ。「たけしさんは本当に気さくな人。たけし軍団に対しては厳しいところがありますが、それ以外の芸人にはまったく偉ぶらないし、自分から“飲みに行こう”と気軽に誘うんですね。若手の芸人は誘われるとビビっちゃうんですが、たけしさんは友達のように隣に座って、“タバコちょうだい”とか“あんちゃんはどういうものをやってんの?”とか話しかけているんですね」

 威厳や威圧感を醸し出すどころか、できるだけ相手にプレッシャーを与えないように努めているという。冒頭で紹介した「失礼な若手がいっぱい出てきた」という発言については、「僕は、最近の若手は挨拶がなっていない、という意味ではないと思うんです。たけしさん自身、きっちりと先輩に挨拶するタイプではなかったですからね。たけしさんはきっと、芸人さん同士の人間関係が希薄になっていることを嘆いているんだと思います」(前同)

 かつて師匠が弟子を連れて飲み歩いた時代のように、「売れていない先輩であれ、売れている後輩であれ、もっとつながりを持って一緒に面白いことをやろうぜ。そういうつながりを持つことが芸人の礼儀だと考えているんだと思います」(同)

 これは我々の一般社会にも通じること。つい若い世代に対して敵意をむき出しにしたり、逆に若手は年配者をうざがったりして、世代間で壁ができることは多い。もっとお互いが親密に、腹を割って話し合える人間関係を築く――。たけしの礼儀作法の神髄とは、“人とのつながりを大事にすること”なのではないだろうか。

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