日本シリーズに入っても大谷の勢いは衰えない。第1戦で先発投手として登場し、第3戦では10回、打者としてサヨナラヒット。「長身の左打者がインコース膝元の球をきれいに弾き返すのは難しい。この超一流の打撃技術の残像が次に生きてきます」(スポーツジャーナリスト)

 日本シリーズ第6戦。日本一を決めた試合で最大のポイントとなったのが8回表の日ハムの攻撃、4対4、2アウト満塁でバッターは中田翔。ここで、栗山監督はネクストバッターズサークルに、この試合ベンチを温めていた大谷を送る。

 球場全体が大きくどよめいた。「次打席にリリーフのバースの代打として大谷を出す」と誰もが思う光景だ。これで動揺したのか、ジャクソンの制球が定まらなくなり、中田はストレートの四球で押し出し。この瞬間、大谷はベンチに退いて、バースが打席に立つ。このバースが、投手でありながらジャクソンの球をきれいに弾き返し、1点追加。これで勝負あった。このあとのレアードの満塁弾は「おまけ」のようなものだった。

 結局、この試合で大谷の出番はなかったが、その存在自体が、広島にとって大きな脅威となったことは確かだろう。栗山監督自身、その後のテレビ出演で、「最初から、この試合に打者として大谷を使うつもりはなかった」と明かしている。

「代打・大谷は、まったくのフェイクだったわけですが、このシーンが来る前から、栗山監督は大谷にバッティング用の手袋を持ってブラブラさせたり、ベンチ裏に待機させたりして、大谷を代打、あるいは抑えとして出すかのように見せ、広島ベンチを幻惑していたんです」(前同)

 栗山監督が大谷を第7戦に先発させるつもりだったことを考えると、実際には、この日は投手としての出番もなかったはずだが、それでも、広島側から見れば、試合展開によっては救援投手としての大谷が登板する可能性を排除できなかった。かくしてジャクソンも広島ベンチも、出ることのない大谷の幻影に怯えることとなり、“自滅”したのだ。

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