そしてトランプ氏は、習国家主席にとって青天の霹靂と言える行為に踏み切った。40年弱にわたる米国の外交慣例を破り、昨年12月2日、台湾の蔡英文総統との電話会談を断行したのだ。

 政治部記者は「これは歴史的事件です」と言うが、中国共産党は、中国は世界に一つだけであり、台湾(島)は大陸に存在する中国の一部であるという考え=「一つの中国」を主張してきた。米国も、79年に中国と国交正常化が実現して以降、台湾と断交。「一つの中国」を認めてきたのだ。「トランプ氏は、その対中外交政策を、本気で白紙に戻そうとしています。それに対して中国は、我々日本人が想像する以上に動揺していますよ」(あえば氏)

 中国が米国海軍の探査機を盗んだのは、この報復の意味もあるのは間違いないだろう。新大統領就任後、トランプ氏と習国家主席、両者の対立が苛烈化するのは必至の情勢だ。

「激突する両者のどちらがアジア、さらには太平洋の覇権を握るのか。そのカギを握るのがロシアのプーチン大統領です」と言うのは、シンクタンク関係者。ロシアは、クリミア併合問題で米国やEUなどから経済制裁を受ける一方で、中国との貿易に活路を見出している。「確かに今のところ、中露両国がタッグを組んでいるように見えますが、トランプ政権の誕生で“ロシアの中国離れ”が進むとみられます」(前同)

 ロシアの国営メディアは大統領選中、あからさまに民主党候補のヒラリー・クリントン氏を批判。大統領選挙後は、プーチン大統領が早々とトランプ氏に電話をかけ、祝意を伝えている。そのプーチン大統領の祝意へ応えるかのようにトランプ氏は、プーチン大統領と親交が深い米石油大手エクソン・モービル会長兼最高経営責任者のレックス・ティラーソン氏の次期米国国務長官起用を決めた。

「プーチン大統領としては、国内経済を停滞させている制裁解除を、なんとか実現させたいというのが本音。12月20日、オバマ政権がロシアへの追加制裁に踏み切りましたが、これは、オバマが最後に自身の存在感を示したかったためです。一方、次の国務長官候補であるティラーソン氏は、自身のビジネスとの絡みもあり、北極海の石油開発に影響を与えている制裁に反対の立場なんです」(同)

 あえば氏が、こう続ける。「もちろん、そう簡単に、制裁が解除されることはないと思います。しかし、トランプ氏は制裁解除という外交カードを巧みに使い、ロシアと中国との分断を図ることも可能です」

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