というのも、THAADが韓国に配備されれば、それに付随する探知レーダー『AN/TPY-2』が、中国の各種ミサイルをも丸裸にできるからだ。軍事評論家の古是三春氏は、「中国にとっては、ミサイル戦略の根本から見直しを迫られるほどのインパクトがある」と話したうえで、やはり、「旅行客の制限は韓国に対する締めつけ」(前同)との見解を示す。

 もちろん、韓国とすれば北朝鮮の暴走に備えることが最大の目的なのだが、そうした説明を聞く耳を中国政府は持っていない。そればかりか、今年2月27日、ロッテがTHAAD配備のための用地を提供したことが発表されると、中国の官製メディアが「ロッテ製品ボイコット」を呼びかける事態に発展。結果、人民の間で不買運動が進んでいるという。

 さらに、中国内のロッテマートは中国消防当局の抜き打ち検査を受けて、営業停止措置を次々と受ける始末。3月7日時点で、中国の総店舗数の4分の1に相当する23店舗が営業停止に陥っている。「中国に展開しているロッテ百貨店も含めて、韓国企業への圧力は今後も増えていくものとみられます。さらに、韓国人の芸能人が登場するドラマや広告、映画の放送を禁止する韓流禁止令もあり、韓国は真綿で首を絞められるようにして崩壊しかねません」(在北京記者)

 本来であれば、ここで強く出なければいけない朴槿恵政権だが、朴大統領はスキャンダルの連鎖で失職。黄教安・大統領代行兼首相が指揮を執り、WTO(世界貿易機関)へ中国を提訴する考えを明らかにしたが、このカードを切れば、中韓の一時の蜜月関係は永遠に復活することはなくなるだろう。評論家の室谷克実氏が言う。

「韓国は軍事的に米国と結びつくしかないのに、朴大統領は中国に媚びた“コウモリ外交”をやろうとして、失敗したわけです。韓国を属国としか見ていない中国は、THAAD配備は韓国の裏切りと考えており、次期大統領への牽制の意味も込めて制裁を行っている。韓国メディアは“大変だ、大変だ”と大騒ぎしているので、ここまでは中国の狙い通りでしょう」

 つまり、まもなく行われる韓国大統領選に、中国は中国なりの“意向”を反映させたいというわけだ。

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