■風呂場やクーラーの仰天秘話

 こうした地方ならではの特徴も楽しみの1つだが、“土俵の外で一番荒れる”といわれるのが名古屋場所だ。「国技館などでは東西の支度部屋ごとに風呂場があるんですが、名古屋場所では対戦した力士同士、1つしかない風呂場で鉢合わせしてしまうこともしばしば。勝負のあとで皆、殺気立っていますからね。06年、千代大海(元大関)に敗れた露鵬(元小結)が土俵上でにらみ合った後、完全にキレ、怒りにまかせて、千代大海が入っている風呂場のガラスを叩き割った事件は有名です」(長山氏)

 前出の下角氏も、風呂場について、こんな秘話を明かしてくれた。「取組後に力士がお風呂に入るのは、汗や砂を洗い流すため。でも、横綱・日馬富士関や大砂嵐関(十両)は、ゆっくりお湯に浸かるタイプみたい。ただ、お風呂の役割って、それだけじゃないんです。悔しい負け方をした力士が、その悔しさを置いて来る場所でもあります。臥牙丸関(十両)が悔しさのあまり、母国のグルジア語でずっと、わめいていた話を聞いたことがありますし、現役時代の元小結・垣添関は悔しさのあまり、風呂に入らず、砂まみれのまま帰ったなんて話もあります」

 仰天秘話はまだある。「国技館で仕事をしていると、驚くことが多々ありますが、その1つがクーラーの温度。体の大きな親方やお相撲さんは暑さが苦手なので、18度に設定されることも多く、真夏でもGジャンのような厚手の上着が必需品です」(前同)

■幕内力士にとって1本6万2000円の懸賞金は魅力的

 ところで、力士なら誰もが上位の番付を狙うのは、番付によって待遇がまるで違うため(文末の表参照)。特に幕内力士にとって、1本6万2000円(土俵上では3万円が渡される)の懸賞金は魅力的だ。「横綱、大関クラスでなくても、人気力士になると、たくさんの懸賞金がかけられます。高見盛(元小結)の現役時代もそうでした。対戦相手の力士は“高見盛戦は燃える”といって、闘志を剥き出しにしていましたね」(前同)

■勝ち星にこだわり、ゲンを担ぐ力士たち

 こうして勝ち星にこだわる力士が、ゲンを担ぐのも当然のこと。「高見盛関は、勝ったら同じレストランに通うので、連勝が続くと、毎日が焼肉になったりしたそうです。また、場所入りする道順でゲンを担ぐ力士もいます。負け続けたため、毎日ルートを変えていたら、国技館へ行く道がなくなってしまったとか(笑)」(前同)

 ほかには、“勝ったら頭を洗わない”というゲン担ぎを実行していた力士が、7連勝したあたりから、「頭に何かが湧いてくる感じで、つらい」と漏らしていたという話も……。

●エビスビールは恵比須さんで縁起がいい

 琴剣氏が続ける。「ある力士の付き人で、鼻の横に大きなホクロがある人がいたんですが、彼は場所が始まると、必ずそこにバンドエイドを貼るんです。なぜかというと、ほくろが黒星を連想させるから。とにかく、力士は“黒”を嫌います。場所中にマジックでサインするのを嫌がったり、中身が黒いからとアンパンを食べなかったり。ビールでも、キリンビールは好みません。キリンって四本足でしょう。土俵に手足をつくことを連想させちゃうからですよ。アサヒビールは太陽のマークだし、サッポロビールは白星。エビスビールは恵比須さん(七福神)で縁起がいい。だから、粋な後援会の方は、キリンは差し入れしません。でも、キリンが一番うまいんですけどね(笑)」

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