■横綱と戦える地位にいたい!

――家族の存在は大きいですよね。さて、ここで九州場所で対戦する力士や場所への意気込みを聞かせてください。現在、21歳の貴景勝、阿武咲といった若手が注目されていますね。

安 若いよな~。青森の後輩・阿武咲は入門前から注目しているけど、この巡業中もよく稽古をしてたし、ふだんから厳しい稽古を重ねているみたいじゃない? 何よりヤル気が前面に出ているところがいいよね。

豪 その2人もいいですけど、夏場所、ウチの部屋に入門して、九州場所で新入幕を決めた矢後(23)。大学の後輩でもあるんですが、マジメという言葉しか見当たらないくらいマジメなヤツなんです。相撲に対する、その部分は、後輩と言えども見習わなければならないと思っていますし、彼の存在がすごく刺激になっています。とはいえ、自分は秋場所、初日から5連敗して最後まで波に乗れないまま、アッという間に場所が終わってしまった。こんな感覚は初でした。

安 年だね(笑)!

豪 う~ん(笑)。振り返ると、8月の夏巡業から稽古のペースを上げ過ぎて、「オーバー稽古症候群」になっていた部分もあった。「ベテランは休むのも稽古だ」と師匠に言われているんだけど、自分は休む勇気のない力士なんですよ。自信がないから、つい、やり過ぎてしまうんですよ。やるとき、休むときのバランスが大切でしょうね。

安 俺は師匠に「休め」と言われたことはないけど、無理をしないことも大切なんだろうね。九州場所で、幕内に復帰。でも、俺の目標は「再入幕」というわけじゃない。いつでも三役を目指しているし、横綱と対戦できる地位にいたいと思っているんだ。東北人特有の“負けじ魂”なのかな?

豪 “東北魂”だと思います。自分も「対戦相手にも自分にも負けたくない」と思って、ここまで来ましたからね。今の目標は、もう一度、三賞を取ること。そして、「勝ち越して辞めたい」ということです。これまでの自分への褒美として、勝って引退したいんです。

安 ふ~ん、じゃあ、九州場所で勝ち越して辞めてもいいよ。俺が許す(笑)。

豪 それはあんまりじゃないですか、安美関~(笑)。

取材・文/武田葉月(ノンフィクションライター)

安美錦竜児(あみにしき・りゅうじ) 本名=杉野森竜児
昭和53年10月3日、青森県西津軽郡深浦町出身。小1で相撲クラブに入り、中高と相撲部で活躍。卒業後、安治川部屋(現・伊勢ヶ濱部屋)に入門。平成12年1月、新十両へ昇進し、同年7月場所で初入幕。同場所で初の敢闘賞。14年3月場所で初の技能賞、15年1月場所で横綱・貴乃花を初挑戦で破り、自身初となる金星を獲得。最高位は関脇。殊勲賞4回、技能賞6回、敢闘賞1回、金星8個。師匠の伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)は父の従兄弟に当たる。昨年、左アキレス腱を断裂する大ケガを負い、十両に陥落したが、この九州場所で見事、昭和以降最年長で幕内に返り咲いた。得意は右四つ、寄り。184センチ、142キロ。

豪風旭(たけかぜ・あきら) 本名=成田旭
昭和54年6月21日、秋田県北秋田市出身。中学3年間、柔道に打ち込んだ後、金足農高で相撲部に入部。中央大4年のときに学生横綱のタイトルを獲得し、尾車部屋に入門した。平成14年5月に初土俵を踏み、幕下を2場所、十両を3場所で通過し、15年3月に初入幕。20年1月に12勝を挙げ、初の三賞となる敢闘賞を受賞。翌場所、新小結に昇進。30歳を過ぎても進化し続け、26年名古屋場所で、横綱・日馬富士を破って初金星。35歳1か月での初金星は昭和以降の最年長記録。同年9月には35歳で新関脇に昇進し、戦後の最年長記録を更新した。最高位は西関脇。敢闘賞2回。金星1個。得意は突き、押し。171センチ、151キロ。幕内最小兵力士である。

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