■牝馬クラシックでも名フレーズが!

 そんな00年代は牡馬や古馬のレースを担当していた馬場氏だが、杉本氏と2トップを形成していた1990年代は牝馬クラシックを担当。その中でも名実況といわれるのが、93年のエリザベス女王杯。

「ベガはベガでもホクトベガ」

 今も語り継がれる名フレーズだが、馬場氏は気にも止めていなかったという。翌日、先輩の桑原征平氏に「昨日の実況、良かったな」と言われて、「一般の競馬ファンには、こういう実況がウケるんだな」と気づいたそうだ。そんな馬場氏が、ホクトベガより気に入っている実況は“本家”ベガが勝った、同年の桜花賞だという。

「花曇りの空に一等星輝く」

 常に実況に深みを持たせるために古今和歌集などを読み込んでいた馬場氏ならではの名実況。そのときの情景が浮かんでくるようだ。

■天皇賞・春で競馬ファンがゾクッ!

 馬場氏に続いて、杉本氏に一番気に入っている実況を聞いてみると、一番を決めるのは難しいとしながらも、うまくいったと自信があるのは、マヤノトップガンの勝った97年の天皇賞・春だという。確かに、このレースを見直すと、3番人気と思えないほど実況で同馬をフォロー。結果を知っていたといわれても不思議でないくらい読みが冴えているのだ。「人気はサクラローレルとマーベラスサンデーだったんですが、その週に武邦彦さんとのトークショーで、“怖いのは死んだフリをしている第三の馬”と聞いたんです。それで、トップガンの前哨戦(阪神大賞典)を見直したら、後ろからの競馬を試したように見えたんですよ。騎手は田原成貴だし、これはやるぞと(笑)」(杉本氏)

 そしてレース中のマヤノトップガンは、内でジッと我慢。「そのときに“これで良いのではないでしょうか”と咄嗟に出てしまったんですよね。ただ京都は、夕方になると西日が凄いんです。だから追い込んできたときに、絶対の自信がなかった」

 そんな状況だったからこそ、競馬ファンがゾクッとした、あの言葉が響いた。

「大外から何か1頭突っ込んできた。トップガンだ、トップガンだ~!」

 一呼吸置くことで、より印象的な言葉になったのだ。

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