(3)ナイスな内外装

 銭湯といえば富士山……と、どの銭湯にも同じようにあると思いがちな「富士山のペンキ絵」だが、その実情は想像以上に千差万別。「海を望む松原に富士山、という定番イメージだけはなく、朝日に染まった縁起のいい赤富士、雲海の中にすっくりとそびえ立つ姿など、多種多様です。東京・目黒区の『武蔵小山温泉』の壁絵には、富士山へ舞い降りる宝船に乗った七福神の姿が描かれていたりして、ハッピーな気分になれますよ」(茅野氏)

 ちなみに、現在、オールドスタイルのペンキ絵を描ける職人は、高齢化や銭湯の新築需要そのものの減少で、なんと全国で3名のみ。「しかし、そのうち一人はなんと美大を出た30代の女性。ペンキ絵の魅力に開眼して以来、新作はもとより、既存の銭湯のペンキ絵を修復するなどの活動も行っているとか。希望の持てる話です」(茅野氏)

 また、浴槽や建物そのものの作りにも、その銭湯や地域の歴史が垣間見える。「東京では奥の方の壁際に設置された浴槽が多いですが、関西では浴室の中央部に丸い浴槽がある……というスタイルが増える。これは、利用者に肉体労働者が多かった関東では泥や汚れを洗い流してから風呂に入るため洗い場を手前に設置したのに対し、商人の多かった関西ではその必要がなく、中央にあったほうが浴室全体を効果的に暖められるからだと言われています」(茅野氏)

 他にも、唐破風の屋根が優美な昔ながらの日本建築の建物など、歴史や建築が好きな人にとっても銭湯は見どころたっぷり。こうした側面だけをまとめた書籍や見学ツアーもあるほどで、風呂に入りながら豆知識を増やすのも楽しい。

(4)個性的な食体験も!

 湯あがりにビン牛乳をぐいっと……というのが銭湯のイメージ。居酒屋併設のスーパー銭湯でもなければ、ガッツリ食べるのは難しいと思う人もいるだろう。「しかし、食堂併設の銭湯も、実は多いんですよ。東京・練馬区の『貫井浴場』は広い食堂で醤油ラーメンやチャーハンを食べられるし、台東区の『サウナセンター大泉』なんて、僕は絶品のハムエッグ定食を食べるために行ってると言っても過言ではないです(笑)」

 そう茅野氏は言うが、広い日本には、さらに驚きの銭湯もあるという。「佐賀県の嬉野温泉に『シーボルトの湯』という町営浴場があるんですが、ここは本当にすごい。なんと、嬉野温泉の市街地にあるほとんどの飲食店のご飯が出前できるんです」(福岡在住のライター)

 嬉野といえば九州有数の温泉街で、街を歩けば温泉水を使った湯豆腐や皿うどん、有名カツ丼店などが並ぶ。なんと、これらのメニューを浴場の座敷まで出前してもらえるのだ。「一日中風呂に出たり入ったり、ダラダラとビールでも飲みながら、嬉野の味をとっかえひっかえ堪能できる。天国ですね」(前同)

 なんともいい話……。近隣市町村にお住まいの方がうらやましい。

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