■役所広司が主人公の悪徳刑事を演じて

――今回の映画の監督は昨年、『彼女がその名を知らない鳥たち』で数々の賞を受賞した白石和彌さんが務めていますね。

柚月 白石監督が2016年に撮られた『日本で一番悪い奴ら』という悪徳警官を描いた作品を拝見しまして、この監督ならお任せしても安心だなと。

――どんな部分がですか。

柚月 自分が撮りたいものをオブラートに包まずに、妥協とか一切せずに真正面から勝負する監督なんだなって思ったんです。

――『孤狼の血』の主人公である悪徳刑事・大上は役所広司さんが演じていますね。

柚月 役所さんが大上を演じたら、原作以上に怖いんだろうなってことは想像がつきましたね(笑)。実際、激昂するシーンでもストレートに怒るのではなく、感情を抑えたというか、ともすれば、ちょっと笑みをたたえた感じが、逆に凄みがあって印象的でした。

――完成した本編をご覧になっていかがでした?

柚月 最初に私の名前を観たときに「カッコいい!」って(笑)。

――そこですか(笑)。

柚月 以前から、原作の面白さと映像の面白さって比べられないと思っているんですね。そういう意味で、今回の映画版に関しては完全に白石作品になっていたと思いますし、観終わった後は、胸を震わせんばかりで、呆然としましたね!

――オープニングには昭和という時代設定に合わせて、敢えて古い感じの東映の三角マークが使われましたね。

柚月 最初に観たときに「あ、コレコレ!」って(笑)。あの三角マークに荒波を観たときは、もうそれだけでテンションが上がって、感動しましたね。

■渡瀬恒彦が初恋

――見た目からは想像できませんが、柚月さんは好みが『週刊大衆』っぽいですよね!?

柚月 アハハハハ(笑)。たぶん『大衆』の読者の方と頭の中は同じだと思いますよ(笑)。阿佐田哲也先生の『麻雀放浪記』も大好きですし。あと色川武大さんのほうのお名前で書かれている『狂人日記』も好きなんです。それに、初恋は渡瀬恒彦さんですし……(笑)。

――えぇっ!

柚月 私の世代だと、たのきんトリオやシブガキ隊、チェッカーズに夢中になっていた人が多いんですよ。でも私の中では、渡瀬さんが最高! でした。

――渡瀬さんのどこにひかれたんですか?

柚月 やっぱり、大人の男っていうか、シブいでしょ。思ったことをすべて口にするわけでなく、こらえながら……。そして、しっかり譲らないものがあるところがステキですね。

――きっかけは?

柚月 薬師丸ひろ子さんが主演の映画『セーラー服と機関銃』(81年)でしたね。薬師丸さん演じる組長・泉を守る若頭・佐久間役で、「お嬢さん」って言うのが、もうたまらなくカッコ良くて(笑)。でも、この話をすると、皆さん「?」って首をかしげるんですよ。さすがに、初恋が渡瀬さんっていう女性は少ないらしくて……。

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