■巨人のキャッチャー小林誠司はWBCで期待していたのに…

野村 巨人全盛期のV9時代は、選手が天才ぞろいでも、川上(哲治)さんが束ねて緻密な野球をやっていた。だから強かったんだよ。でも、今の巨人には、V9の頃の野球理論なんて、もう残ってないでしょ。監督の高橋由伸は外野手出身だから、どうしても些事小事に気が回らない。投打における分析力に欠けるよね。本来なら、キャッチャー出身の村田(真一ヘッドコーチ)が、しっかりしなきゃダメなんだけど、うまくサポートできてない。

 もし俺が今の巨人の監督をやるとしたら、選手たちに“とは理論”を投げかけてみたいかな。「勝負とは」「打撃とは」「守備とは」、いわば野球の根本だよね。答えは何でもいいんだけど、要は問題意識を持っているのかどうか。巨人には、いい選手がいっぱいいるんだから、あとは頭だけ。今の巨人の選手から、どんな答えが返ってくるのか、興味あるね。ただ、「野球とは」って聞いたら、「精神力のスポーツ」って言いそうだよ(笑)。まぁ、精神野球ってのも、実は決して間違いじゃない。気合いとか、根性とかで乗り越えられることも確かにある。でも、我々はアマチュアじゃない。野球のプロフェッショナルという自負があるなら、それ以上のもの、つまり「頭のスポーツ」でファンを魅了することが大事なんだよ。巨人でいえば、ピッチャーの菅野(智之)は、そんな野球の本質に一番近いと思う。彼は自分をよく知ってるでしょ。豪速球が投げられないのを自覚しているから、コントロールと配球の重要性が分かっている。それに対して、キャッチャーの小林(誠司)は全然ダメ。出すサインに根拠がない。小林に聞いてみたいよ。「サイン一球一球を説明できるか」ってね。昨年のWBCのときには、けっこう期待してたんだけどな。

 ただ、今の球界には、ちゃんとキャッチャーを育成できる人材が不足しているという問題もある。本当は一番伸びる18〜22歳の時期に、きちんと指導すべきなんだ。でも、他のポジションと比べて、キャッチャー経験者自体が少ないからね。その点、古田(敦也)はツイてたと思うよ。ヤクルトに入団した1年目から、俺の下につくことができたんだから。まぁ、さんざん口酸っぱく説教はしたけどね(笑)。

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