●江利チエミとの夫婦喧嘩は!?
インタビューの大半は、歌手で女優の妻、江利チエミとの話に割かれている。「(女房は)大変な泣き虫ですね。(思い出したように)それにオッチョコチョイ、これは絶対だな。でも、いい……」
そのあと「女房」といいかけたようだが、照れくさそうに言葉を途切れさせた。本誌は「女房が女優であることの不便さは?」という問いも投げかけている。「ウチのやつは、プロダクションでスケジュールを立ててくれるんで、わりあいに不便じゃないですよ。ぼくが帰る10分ぐらい前に帰ってくるらしいんだけど、(ここで突然吹き出すように)もう3時間ぐらい前から、ぼくを待っていたような顔してるんですよね」
夫婦ゲンカについては、「どうもウチは盛大じゃないな。ぼかァ、やたらに腹が立つとケンカを吹っかけるんだけど、まるっきり向こうが相手にならないんだな。ニコニコ笑ってるんですよ。ノレンに腕押しだ」
――夫婦が死ぬまで一緒にいるには諦めが必要?
「これは難しい質問だな。ぼかァ、夫婦が一生涯愛し合うための条件は、思いやりだと思うんですが……」
――もう助からないと思ったとき、女房に何を言い残すか。
「(驚いたようにエエッと聞き直した後、楽しそうに)早く、いいのを探せよって言ってやる。(中略)いろいろ苦労かけたなってのは、やっぱり体裁悪くて言えないな」
やはり、そこは不器用なのだ。当時、そんな健さんには密かな楽しみがあった。
――女房のヘソクリに興味はありや。
「見つけるのは楽しいです。この間も見つけちゃった」
その後、離婚する2人だが、このときは理想の夫婦。だが、インタビューの1年前、京都市民映画賞を受けたチエミが「忙しくて行けないから、代わりに(賞を)もらってきて」と健さんに言ったところ、「女房の賞を、まだ賞も取ったことのない亭主がもらいに行けるか」とケンカしたという。そこに、“俳優・高倉健”の意地が見える。『網走番外地』が封切られるのは、このインタビューの2年後のことであった。