■怪物がさらなる覚醒を

 ひと皮剥けた大谷。そんな怪物が、さらなる覚醒を遂げたのが、この年のシーズンオフに実現した“ミスタープロ野球”長嶋茂雄氏(巨人軍終身名誉監督)との出会いだった。「スポーツ報知の企画で、年末にミスターと大谷が対談したんです。記事は翌17年元旦発売の同紙上に大きく掲載され、反響も大きく、今では“伝説の対談”となっています」(前同)

 “ミスタープロ野球”と呼ばれるレジェンドと、海を渡り球界の歴史に新たなページを刻んでいる若武者。両者の対談は、非常に興味深いものだった。〈(長嶋さんは)テレビの中の人。小さい頃から大スターみたいな感じです。岩手(のテレビ中継)は巨人戦が主。本当に巨人戦ばかり見てました。僕が好きだったのは高橋由伸さん。1番を打っていた時とか。二岡さんもそうですし。その時の監督は長嶋監督で〉(スポーツ報知17年1月1日号より=以下同)

 大谷は、巨人戦を見てプロへの思いを強くしていたのだ。そんな大谷に長嶋氏は、こんな言葉をかける。〈今年で5年目? 大したものだね。高校の時は正直、分からなかった。すごい選手がいると見始めて、『あ、これはすごい選手になるな』と。3年ぐらい前から、すごい投手になるとみていました〉

 王会長が早くから「打者・大谷」を買っていた一方で、長嶋氏はどちらかと言えば、「投手・大谷」を評価していたことが分かる。ただ、打撃に関しても、〈打撃もいいね。背が高い上に、バットの出し方が非常にスムーズ。(球のインパクトまで)短く、前に(フォロースルーが)大きい〉とベタ褒め。さらには、〈悪いところは何もない。外角はレフトへ、内角はライトへ。広さ(打球方向)が非常に大きい。打撃に関しては何も言うことはないね。教え子だったら?  教えることなんてないよ。ないもん(笑い)〉

 大谷も、これには恐縮しきりだったはず。たまらず、長嶋氏に打撃について質問している。すると、長嶋氏は、〈僕の場合は初球から打つ。1ボールからも打ちにいく。2ボールだったら打たないかな…。2ボールになれば打者の勝ち。1ストライク2ボール、1ストライク3ボールの時は勝負〉と、生涯打率.305、444本塁打、1522打点の強打の秘密を惜しげもなく伝授している。

 両者の年の差は実に59歳。それでも長嶋氏は、〈僕と勝負したら、どうだろうね。勝負にならないな(笑い)。160キロのすごい球を投げるから、そう簡単には打てない。バットに当たることは当たるけど、本塁打、安打はなかなか難しい〉と、茶目っ気たっぷり。

 ただ、プロとしての心構えについては、大先輩としてシリアスに語っている。〈やっぱりファンあってのプロ野球。まずファンを大切にする気持ちが必要。(中略)オフも忙しいのは仕方ない。ファンのために、マスコミなどにサービスするのは大事な要素だよ〉 これが、“ミスタープロ野球”と呼ばれた男が、今も守り続ける矜持なのだ。

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