感情の起伏によって身体に棘を発する架空の種族「棘人」と、そうした特質をもたない人間たちとがともに暮らす世界を舞台に、両者の交流を象徴する伝統儀式「棘刀式」を軸にしてストーリーが展開される。町の中に貼られた注意喚起のポスター等からは、棘人が危険な存在として疎まれていることが示され、棘をもたない人々は棘人たちに半ば警戒、半ば好奇のまなざしを向けている。

 双方の種族から「棘刀式」における主要な役割に選出された二者(橋本奈々未・西野七瀬)がささやかに交流をもつなかで、異物として遠巻きに覗いていただけの互いの人格にふれ、ついに垣根を取り払って溶け合う瞬間が訪れる。やがて「祭り」の時間が終わると、あの「異物」であった者は人々のもとから忽然と消え、あとには彼女がかつて存在していた記憶だけが残される。

 ほんのひとときの「祭り」を終えて人々のもとを去ってゆく「異質な他者」という役柄は、もちろんこのシングルで乃木坂46メンバーとしての活動を終え、そして芸能者としてのキャリアにもピリオドを打つ橋本にあてて書かれたものである。その構図を、ここでは個人間の関わりのレベルを超えて、共同体の成員の内における異なる民族間の葛藤として描くことで、このドラマはグループの文脈から独立した普遍性を獲得している。

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